「ホープ先輩、はいっバレンタインのプレゼントでーす!」
「あ、ありがとアリサ」
と言ってプレゼントの包みに手を伸ばすけど、なかなか掴もうとしない。何なの? その怪訝な顔。しけたツラがますますしけて見えるわよ。
「ちょっと先輩〜、何ですか? その疑いの目!」
「……変なもの入ってないよね?」
「可愛い後輩を信じないなんて、先輩もひどいですね、もう! ノエルくんの素直さを見習ってみてくださいよ〜」
「そう言うけどさ、アリサ。前回嫌がらせみたいな激辛チョコくれたの誰だっけ? その前だって……」
「ま! 確かにそんなこともありましたけど〜」
そんな昔のこと根に持ってるのね。ほんと、爽やかに見せてしつこい男なんだから。
「だって他の人と同じチョコをもらったんじゃ先輩もつまらないでしょ? ほら、たまには目新しいものだって楽しんでほしいなって」
何よ。嫌がらせって言っても可愛い程度に収めてやってるんだから、私の方が感謝してほしいわ。
「でも今年はちゃんとしたモノですよ、といってもチョコじゃないですけど。今回はお茶セット!」
「お茶?」
「先輩はどうせ大量にチョコもらうから、チョコに合いそうな美味しい紅茶、それと夜寝る時用にノンカフェインのカモミールティー」
「へぇ、そういうのも、いいね」
「興味持ってくれました?」
うん、と言ってようやく包みを受け取る。とっとと素直に受け取れってのよ。
「私も今回は配慮してみたんですよ。先輩いつもやっすいコーヒー飲んでますよね、あれじゃおいしくないし、胃も荒れますしー。カモミールは安眠効果もあるし、胃腸にも優しいんです。私も寝れないとき、よく飲んでますよ」
開けてみてもいい? といって包みを開けて、物珍しそうにお茶の箱を眺めるホープ。でも。
「ありがとう、アリサ。後で飲んでみるよ」
そういって、包みを横に置くの。
後? 後回し?
……まあね。別に大したことじゃない。さすがに今すぐ飲めなんて言うつもりなかったけど。
そもそも、わかってたわよ、集中してるからタイミングが悪いってことくらい。でも、私だって別の打合せがずっと入ってるし、今日は今しか渡す時間がなかったのよ。なんだから、ちょっとはこっち見たっていいじゃない。
もう、何なの。これだから、この男には何も言えなくなるのよ。
嘘じゃなくて、本音で言えばいいって……ノエルみたいな人は言うけど……
少年みたいに予言の書のライトさんを眺めちゃってるホープに、何を言えって言うのよ!
毎日見すぎじゃないですかって言っても、いつ未来が変わって予言の書も書き換わるかわからないしなんて言い訳しちゃって。バレンタインですらこうなのよ? なのに、私パラドクスですから解消されたくありません、ライトさんは諦めてくださいとか? 絶対、頷かないわ! 目に見えすぎてて、笑い話にもならないわよ。選ばれないってわかってるんだから、ほっといてよ。
ああ、嫌な奴。こんな人がリーダーだなんて。でも、こんなリーダーだけど、みんなついていくのよね……。大変だったのは知ってる。でもそれでもいつも前だけ見て、明るい道を歩くような生き方。
……私には眩しすぎて、嫌いだわ。
でも。
本当に嫌いでいなくなってほしいと思うなら、別の方法だってあったはずなのに。それをしなかった。
お茶で毒殺?!……駄目ね。真っ先に一番近い人間である私が疑われる。つかまるじゃない。それじゃ意味がないのよ。
例えば私の頭脳なら、パラドクスを利用してホープを別の時空に閉じ込めることだってできたかもしれないのに。
あっ! それ、ありじゃない?!なんで今まで考えつかなかったのかしら……。盲点だったわ。今から研究してみたら……間に合うかしら。
……まあでも、『パラドクスを解消するようホープは頑張ったけど、私たちが生きてる間には実現しなかった』……それくらいのシナリオでいいかなって思ってた、ってことかしら。
そう思うくらいには、ホープという存在が、そこにあってもいいって思ってたってこと、よね。
口では色々言ってるかもしれないけど、それくらいは……わかってくれてもいいじゃないの。ほらさあもう予言の書ばっかり見てないで。
「ま、今じゃなくていいですけど。たまには美味しい紅茶飲んで可愛い後輩見ながら癒されてください」
「アリサ、ありがと。でも、最後は余計かな?」
「どういたしまして。ほんと先輩こそ余計なんですから」
「そうだね。本当にありがとう、アリサ」
ああほんと、ムカつくんだから。
小悪魔毒舌全開のアリサの心の中ってどんなだったのかなあ書きたいなあということで、書いてみた話です。変なものあげてストレス解消してたかもしれないとか色々考えるのですが、何あげてたのか具体的に想像すると楽しいです。