「カイアス、いつもありがとう」
「何だ」
「いつものお礼。今日はバレンタインということだから」
そういうのもあったか、と思い起こし、後ろを振り返る。
今日摘んだであろう花束を、静かな微笑みで差し出してくる。……受け取りながら、今回はいつまでこうしていられるのだろう、という気持ちと、いつまでこうしていなければならない? という気持ちが、交互に去来する。
『時を、変えてはいけない。わたしたちは、この世界の秩序が保たれるよう、見守っているだけでいいの』
『私が、ユールを守る。これからもずっと』
『ありがとう、カイアス。あのね』
『……何だ?』
『……大好き』
誓約者は、すべてを記憶する。歴史も、人も。
”一人として同じユールはいない”……と言ったのは私だが、最初に会ったユールに囚われているのも……私か。
あのユールはもう、いないのに。
なのに、ユールが生まれ変わり、また短い命を散らしていくのを、ただ見ているしかできない。
「泣かないで、カイアス」
それでも、目の前で不安そうに見上げるユールと話していれば、そんな感傷も些末なことに変わる。
一人一人違う。前の記憶はない。それでも、新たなユールの一面が見れた、そう思えばいい。
くだらない矜持だとでも言うだろうか? ……だとしても、構わない。
「……違うよ。悲しくて泣いているのではない」
安堵の表情。……それでいい。
「ありがとう。嬉しいよ、ユール」
おいでと言うと、幼い足取りで近づいてくる。膝に乗せて頭を撫でてやると、嬉しそうに柔らかく微笑む。
コクーン一つ落とす程度、造作もない。
この笑顔を少しでも長く見ていられるなら……何だって。
本編補完のノエル編を書いていたときの派生妄想ですね、これは……。カイアスも律儀にユールとの約束を守っているのかなとかそういうことを思いまして。そうしたらかわいい(?)それにしても、カイアスは書くの難しいですねとても。