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トップページ > > FF13 > 人の弱さと強さ

人の弱さと強さ(2)

(1) 覚悟を行動に へ 「コクーンを浮かべる。  まず旧コクーンについてですが、以前までコクーンを管理していたファルシ=エデンの力がないと、制御できないことがわかりました。そのためファルシ=エデンの記憶素子を使ってデミ・ファルシを製造しようとしましたが……  結果、セラさんノエルくんのおかげで、デミ・ファルシが暴走することがわかり、計画は中止。あのときは、セラさんとノエルくんにもご迷惑をおかけしてすみませんでした」 「ううん、いいの」 「ただデミ・ファルシ計画をやめることについては、セラさんには"怒られたから"としか言っていなかったですが、実際には一悶着があったんですよ」 「えっ、そうなんだ」 「はい。なぜやめるのか、じゃあどうするのか、で揉めたのです」 『……デミ・ファルシ計画を進めることを、やめたいと思っています』 『え……』 『なんでですか? ……もしかして、予言の書で、セラさんがいいかげんにしてよってホープ先輩に怒鳴ったからですか?』 『……きっかけは、そうです』 『………はっ、バカバカしいわ。  そんなんで、計画を見直すんですか? 何人もの人が関わってるプロジェクトなんですよ?   それを、セラさんの言葉一つでひっくり返そうって言うんですか?』 『そう言われても、仕方ない。特に立案者であるアリサには申し訳ない』 『先輩……、冗談はやめてください。バカじゃないですか? もう自分だけの話じゃないんですから、もっと考えてくださいよ! そんなのに振り回されるこっちの身にもなってください』 『言い方は別としてですが……アリサの言うことももっともです。  確かに彼らと協力することでパラドクス研究は進みましたし、これからもそれが不可欠でしょう。また、私たちの研究が正しく進んでいるか確認するためにも、予言の書は最大限考慮する必要があります。  とはいえ現実にはデミ・ファルシ計画は、もはや第一研究ユニット内だけの話ではありません。アカデミー全体としてもう予算を組み、計画に基づき動き出しています。当然、多くの人が関わっています。  それを、予言の書にあったからと言ってあの一言でやめるとなればどうでしょう? とやかく言う人も出てくるでしょう。主任にも相応の説明責任が求められます。  駄目だと言っているわけではありませんが、具体的にデミ・ファルシ計画をやめろと言われてはいないわけです。もう少し検証が必要なように思います』  視線が、痛い。  リグディさん……力を貸してくれていた人たちを、僕は今裏切っているのでしょうか。 『……予言の書を見る限り、セラ・ファロンさんたちは、まさに先日設計図ができたアガスティア・タワーと思しき建物にいました。また、とんでもないものを作った、とも言っていました。  まさに、今アカデミーが作ろうとしているデミ・ファルシと、アガスティア・タワーのことかと思われます。アガスティア・タワー自体は演算機能を持つだけなのでそれ単体で何かができるとは思えませんが、問題はデミ・ファルシです。  デミ・ファルシは……、人を管理しようとします。ファルシの思惑に沿うような使命を人に与え、人をルシに、そしてルシをシ骸かクリスタルに変えてしまいます。冥碑になってまで、囚われた人たちもいました……。  僕自身ファルシと対峙したことがあるので、知っています。皆さんもご存知のように……僕はルシでしたから』  足が、震える。 『人はファルシとルシに怯え、直接関係ない人たちまでもパージという形で排除し始めました。恐れるあまりに、人が人を殺すという恐ろしいことが行われていたのです。  それにより、人として当たり前の幸せを求める権利を奪われた人たちがいました。人生を狂わされた人がいました。また、命まで奪われた人もいました。  僕は、それを変えたかったから。人が自分の意思で生きられる世の中にしたかったから。  だからファルシに頼らず、科学の力でコクーンを作っていきたかった。なのに、人工であってもファルシでコクーンを浮かべようとしたのがそもそもの誤りだったんです。  今のままで行けば、またコクーン全体がファルシに怯え、自分たちの生き方ができない時代に逆戻りする。いつ、自分の生活が奪われるのかわからない不安に怯えることになる。もしくは戦うことを余儀なくされるのかもしれない……予言の書のセラさん、ノエルくんのように』  頭がガンガンする。 『ファルシは、決して僕たちのコントロール下に置くことができない。僕は元ルシなんだからそれがわかっていたはずなのに、計画段階できちんとそれを想定できなかった』  "ホープ、私は間違っていた"  パルムポルムの地下、ファルシ=カーバンクルの前。  スノウへの復讐をほめのかしたことを、過ちだったと口にしたライトさん。  けしかけておいて見捨てるのか、となじった僕。  状況は全然違うけれども、ふっと心に思い浮かんだ。  ……ねえライトさん。自分を信じてついてきてくれた人に、自らの過ちを認めるのって……なんて苦しいんだろう。なんて勇気がいることなんだろう。  でも、間違えてたものを正しくしたいと思ってくれたんですよね。相手に誠実でありたいと思ってくれたんですよね。  それなのに反抗して、なじってしまって本当にごめんなさい。 『……本件は、僕が間違っていました。僕の、主任としての判断ミスです』  沈黙が、締め付ける。 『僕は、本当に申し訳なく思っています。予算を積んでるとか動き出してるとか……そういうことじゃなくて。  予言の書が見つかって、未来が見えるようになって、セラ・ファロンさんとノエル・クライスくんに会って、そして……未来にコクーンが落ち、世界が滅びてしまうことがわかった。正直そんな話なかなか信じられないし、信じたとしても遠い将来だから関係ないと言ってしまえばそれまでだ。  でも皆さんはそうじゃなかった。僕の話を信じてくれた。何ができるか一緒に考えてくれた。たくさんの時間を注いでくれた。日焼けして土埃まみれのパドラ遺跡発掘を初めとして、頭の痛いパラドクス解析・予測作業だとか、全部。それがあったからこそこれだけ研究が進み、アカデミーが社会の統治機関として認められる程になったんです。  今回のデミ・ファルシ計画も同じです。コクーンが落ちるとわかってから、ほんとに大変な時期を過ごしたと思います。コクーンを落とさない、仮に落ちるしかなくても被害を最小限に抑える、そのために第一研究ユニットは動いていくんだって……そんな僕の方針を信じてくれた。まさに昼夜問わず、心血を注いでくれたと思ってます。  一緒に頑張ってくれたのに、そんな皆さんの期待と尽力をこんな形で裏切ることになってしまったことが、僕は本当に残念で、悔しくて……心から謝りたい。本当に、ごめんなさい……』  心臓が苦しくて、焦点が合わない。 『………仮に、デミ・ファルシ計画を中止するとしたら……どういう代替案がありますか』 『……コクーンは、ファルシによってのみ浮上することができるようになっています。  ファルシを使わないのなら、現在のコクーンは落ちます……ですから、新しいコクーンを作り、浮かべる必要があります』  そう、予言の書に、13thアークが映っていた。あれだけの質量を浮かべることができるのだから、その浮揚技術をコクーンにも転用できるんじゃないか、と思っていた。 『主任、大変申し上げにくいのですが……  もしこの前予言の書にあった、13thアークの浮力をヒントにコクーンを浮かべようとされてるのであれば……、残念ながら、その案が実現できないことを言っておかなければなりません。  あの後解析した結果判明したのは、13thアークが空に現れるのが387年後だということなんです』 『……387年後?』 『ええそうです。つまり13thアークの浮力の謎は、AF400年にならないと研究できないのです』 『AF400年……』 『我々の今の技術では、残念ながら400年後に行くこともできません……  アリサもこれまでのデミ・ファルシ計画と平行してタイムカプセルを研究してくれてはいますが……設計と試作を繰り返している状態で、完成の目処は立っていません。そもそもその構想自体が適切だったのか……そこから検証する必要があるかもしれません』 『……悪かったわね』 『仮に、時間を行き来できる二人がAF400年に行けたとしても、あの二人が浮力を解明するなんて無理……だな』  負けるな。考えろ。  ………考える? 何を?   だって、今度こそもうどうしようもないんじゃないか?   コクーンを救うために採用しうる鍵は、400年後にしかない。でも僕らは、時を越えられない。  そうしたら、取りうる選択肢は一つだ。  リグディさん。  自分の力であろうと組織の力であろうと、未来を救ってみんなに会うなんて僕には荷が重すぎたのかもしれない。  正しく焦ろって言ってくれたけど、もう焦りようがないかもしれない。  父さん。  あの時は、愚痴を言ってる暇があればもっと研究する、頑張るって気持ちを切り替えられたけど……  今はそんな風にできそうにない。  ライトさん。  前だけ見てろって言ってくれたけど、今、前なんて見れそうにない。  わかってあげられなかった分だけ今からでも守れるのなら……って思っていたけど、できないかもしれない。  だって、400年なんて、生きてはいられないのだから。  ……落ち込むな。仲間に会えるのと世界が救われるのはどっちが大事なんですか、ってアリサの刺すような問いに、世界が……未来が大事だって答えたのは他でもない自分だろう?   だから、もう……みんなには会わない。そういうことなんだ。 『……コクーンを浮かべる鍵は400年後にしかない。でも僕らは400年後には行けない。  だとしたら、400年後の人たちが、浮力の謎を解明して新しいコクーンを浮かべられるように、今はアカデミーの知識を蓄積して継承していくしかない、か……』  重苦しい沈黙が僕を締め付けた。 『それは、この時代では、コクーンを救う方法を見つけることを諦めた……ってことなんですか?』 『もちろん、代替案は随時検討していきます。でも、見つからなかった場合も考慮して、いかに今の研究を発展させ、400年後に引き継ぐのかを考えていく必要があります。確かにこの時代ではコクーンを浮かべる方法はわからないかもしれない、でも確実に知識を引き継いでいけば……後世の人がコクーンを救ってくれる、って信じる』  ファングさんも、ヴァニラさんも、コクーンを救うなんて、一言で済ませられないくらいの葛藤があったはずだ。自分のすべてを捨ててラグナロクとなり、そして、クリスタルとなる。  でもあの二人はそれを選んだ。それでも、覚悟して、決意に溢れた表情だった。  僕は? 死ぬわけじゃない。クリスタルになるわけでもない。シ骸になるわけでもない。コクーンも救われるかもしれない。  なのに、こんなにも苦しい。 『そんな暗い顔して……らしくないじゃないですか。主任が暗いと、みんなが暗くなります。  エストハイム主任は、前だけ見ててこそ主任なんじゃないですか?』 『……え』 『デミ・ファルシ計画は、無期限凍結。それはもういいです。  じゃあどうするの? 代替案あるの? 今ないです。じゃあ私たちが生きてる間では無理なの? ていうと、まだわからないじゃないですか? そんなこと、今どうこう言う必要ないです。  デミ・ファルシ計画が凍結になるなら、みんな時間が余っちゃうわけです。じゃあみんなの空いた頭脳を、アリサのタイムカプセルの完成に集中させたらいいじゃないですか? だって、アカデミーでも選りすぐりの人たちなんですから。総力あげてみんなでやれば、不具合だってすぐに発見できて完成できるはず。  ……って、みんな、私はそう思ってるんだけど、どう?』 『そうですね』 『私もそう思いますよ』 『……うん』 『アリサも。自分が立案したデミ・ファルシ計画の凍結はいい気はしないかもしれないけど、大事なのはコクーンが浮かぶことだから。タイムカプセルが完成したら、それこそアリサの手柄だよ』 『別に、私は……そっちだっていいけどね』 『だからまずは、アリサのタイムカプセルの見直しから始めませんか? 色々考えるのはその後でいいじゃないですか。  で、アカデミー本部に対してはさっきみたいなことを説明していただいて、それでも何か言う人がいたら、うるせぇんだボケがッ! って言ってやればいいですよ』 『いやいや、主任がそれ言っちゃまずいだろ』 『えー、逆にそれ言ってるところ、聞いてみたいかも!』 『でしょ〜。主任がそれ言ったら、相手も絶対びびっちゃって何も言い返せないと思うんだよね』 『じゃあ、ぜひアカデミー本部で言ってくださいね! 後ろから動画で撮っとくんで!』 『それは……困ったな』 「……みんな、笑ってくれました。アカデミーのみんなが、その時の僕の失敗を許してくれたのかどうかはわからない……でもその一件があったことで、同じような失敗をしてはいけない、と思ったんです。  かりそめにも人の上に立つ人間として、判断の責任というものを重く考えるようになったんですよ。それまでは、やれることがあるなら何でもやるんだって、躊躇うことはなかったのに」 「ごめんね。デミ・ファルシのこと、私がもっとちゃんとホープくんに伝えられていたら……」 「セラさんのせいじゃないですよ。セラさんはちゃんと僕に教えてくれただけであって、元々僕がちゃんとデミ・ファルシの問題点を考えられていなかったのがよくなかったんです。確かにみんなの言う通り、デミ・ファルシ計画を実行するには色んな人が関わることになる。それなのに、提示された案に飛びついてしまった僕に責任があります。  本当に……リグディさんの言う組織の力を使うということは、自分だけで考えれば済む話じゃないんだって、ようやく身にしみてわかったんです。セラさんやノエルくん、そして僕の示す方向性についてきてくれる人に対して、僕の判断ミスの尻拭いを押し付け、そして、コクーンも何もかも救えない。そんな結果にしてしまう可能性だってある。  そう思えば、リスクの高い方法なんて取れないって思ったんです。ですから、タイムカプセルの見直しこそ始まりましたが、自分の中ではタイムカプセルを使わないという選択肢を考え始めていました」 『では、現状報告です。  デミ・ファルシ計画に従事していた研究員がタイム・カプセルの見直しに関わったおかげで、タイムカプセルに散在していた課題は解決されまして、まずはテストするまでにこぎ着けられました。テストした結果を見て、また微調整していくことになるでしょうね』 『そうですか……さすが皆さんですね』 『ただ、3点懸念があります。  1点目。今回は一応設計から見直してはみましたが……やはり、アリサの考えた方法でしか実装できなさそうですね。つまり、未来に行くことはできるが過去には戻れない、一方通行の時間移動方法だということです。設計見直しのついでに、双方向での行き来ができないのかも検討したのですが……どうやら難しそうです』 『そのはずだわ。一応私だってそこまで考えた結果、一方通行しかできないっていう結論を出してるんだから』 『それは申し訳ない。まあ念のためですから。  2点目ですが、このタイムカプセルは装置内に重力場を発生させ、その周りだけ時間の進み方を遅らせるという装置です。人体に対して大きな負荷を長期間かけることになるわけですから、身体機能への影響が懸念されます。一歩間違えば……という危険性があります。  最後に、新技術にはつきものではありますが、このタイムカプセルは技術的に確立したものではないため、動作の保証ができないということです。  以上3点を総合すると、タイムカプセルは完成したとしても非常にリスクの大きい時間移動装置だと言わざるを得ませんね……』 『そうですか……わかりました。……リスクの高い選択肢は正直選べない、な』 『………』 『失敗する可能性の高いものをわざわざ選んでみんなにまた迷惑をかける、そしてコクーンが救えない。そんなことは絶対に避けないといけない。僕らには失敗は許されないんです。確実にコクーンと未来が救われる道を探さないといけないんです』 『……それは、そうです、が……』  その時、電話が鳴った。  電話を聞くなり、すぐに僕は走り出した。 『……父さん!』 『ホープ……忙しいのに、すまない』 『なんでなの? 風邪じゃなかったの?』 『私も単なる体調不良かと思っていたんだが……そうじゃなかったみたいだ』 『なんで………』 『きっと、のんびりしすぎたんだ。私もお前の父親だからな、 根っからの仕事人間なんだ。臨時 政府もアカデミーももう大丈夫だと思って安心して引退したんだが、引退してからは張り合いがなくなったせいか急に体力がなくなった。ノラがいればまた違ったかな……』 『 …… ごめん』 『なんでお前が謝る?』 『……僕が余裕がなかったからだ! 僕が忙しくて、チームのことで手一杯で……。  もっと、父さんと話していればよかった。そうすれば、気付けたかもしれないのに!』 『ホープ。お前がそんなことに責任を感じることはないんだ。 それだけ、やるべきことがあったということだろう?  私もお前も、人のため、コクーン復興のために力を発揮できることがあった。それは、幸せなことなんだ。それを気に病まなくていい。  今は、 お前だけに背負わせてしまってすまないな、と思いながらも…… 自分が創立したアカデミーを、息子が立派に引っ張っていってくれていることを本当に嬉しく思う。これからも、そうやって進んでいってほしい』 『……………嫌だ』 『……ホープ?』 『なんで、そんなこと言うの? なんで、もういなくなっちゃうようなこと言うんだよ?』 『ホープ、すまない。……ノラもいなくなり、そして私ももうすぐいなくなってしまう。ノラが死んでからは今度こそお前と一緒の時間を過ごそうとも考えていたのに……結局、親子だとか家庭の温かさの教えてやれなくて、申し訳なかったな』 『そんなことない! いつもいつも、十分すぎるくらい……だから、僕はもっと父さんに生きていてほしい……。僕を、1人にしないで……!』 『ホープ』 『みっともないってわかってるけど! いい歳した男がこんな風に父親にすがるなんてさ!   でも、僕が今こうしているのは父さんがいたからなんだ! 父さんがいなかったら、僕なんて……みんながいなくなる中、自棄を起こして、今頃どうなってたかわからない!   普通の生活に戻れても、元ルシってだけで難しい立場だった。でも父さんがいつも僕を見てくれて、気にかけてくれたから。だから僕も安心してアカデミーにいられたし、研究にも専念できた。研究についてもたくさんアドバイスをもらってたし、不安になった時だって励ましてくれて、だからここまでやってこれた!   父さんがいなくなったら、僕は本当に1人になってしまう……  僕はコクーンのためになるなら……未来が救われるなら、自分はどうなってもいいって思ってた。仕事ばっかりしてそのうち倒れたって、仲間に会えなくたって仕方ないって、本当にそう思ってたんだ。でも今は、未来が救えたとしても、一人になることがすごく怖い……』  そう、本当にその通りだ。自分の言葉の通りすぎて、嫌になる。  今までのことは全部、父さんという基盤があったからやれていたことだって。それがなくなったら自分がどうなってしまうのか……考えたくなかった。 『……お前があまりにもしっかりしているからいつも忘れてしまいそうになるが、本当はお前が一番怖いよな……すまなかった、ちゃんと汲み取ってやれなくて』 『ごめんそんなこと言われたってね……父さんが悪いわけじゃないのに……』 『私も、お前を一人にするかと思うと忍びない。せめてお前がルシの頃の仲間と会えればな……』 『……それは……実はもう、難しいと思ってるんだ』 『え? それは、どうして』 『……パラドクスを解消して、コクーンが落ちない未来を作れたら……きっとみんなにもう一度会えるって思ってた。  でも、コクーンが落ちない未来は、400年後に行けないとヒントがわからないんだ』 『400年後……』 『この前も言ったように、人造ファルシでコクーンを浮かせるという計画は中止。でも、今のコクーンはやっぱりファルシがいないと浮かべられない。だから、ファルシに頼らないでも浮かべられる新しいコクーンを作って、そこにみんなを移住させる方法しかないんだ。今は、新しいコクーンをどうやって浮かべるかを考えているんだけど……。その方法が400年後にしかないってことなんだ。  ……想像もできないよね。そして、もう僕は生きていない』 『……その方法しかないのか? 確か、タイムカプセルを研究していただろう?』 『見直しもしたけど、やっぱりすごくリスクが高い。  確かにその装置を使えば、400年先まで行けることにはなってる。ただし、もう戻ってはこれない。それと、重力場を発生させて未来に行く仕組みだから、強い重力下での人体への影響が懸念されてる。そもそも新技術にはつきものではあるけど、成功する保証はないんだ。  それに、仮に成功して400年後に行けたとしても、僕らがコクーンを浮かべる方法を本当に見つけられるのかもわからない。  それであれば、よりリスクの低い方法を採るしかないと思ってるんだ。……つまり、この時代の人はこの時代で出来うる限りのことをする。つまり僕は、父さんの創立してくれたアカデミーを拡大し、知識と技術を最大限に発展・継承して、400年後の人々がコクーン浮揚技術を開発できるようにしないといけないと思ってる』 『……タイムカプセルなんて話を聞いた時は、てっきりホープが行くものだと思っていたぞ』 『いや……僕にはアカデミーがあるから、自分自身が動くのは難しいと思ってる。  ……誰が行くにせよ、正直、決めることが怖い。デミ・ファルシの一件みたいに、自分の判断ミスが大きな間違いにつながるんじゃないかって……。リスクなくあと何十年過ごして、やるべきことを整理して後世に引き継いでいったほうがよっぽどいいんじゃないかって思ってる』 『……ははは』 『えっ、笑うところじゃないよね父さん? 僕、今すっごく真面目に話してるんだけど……』 『判断の責任を感じるということは、リーダーとして自分を自覚しているってことなんだな……父親として、息子がそんな風に育ってくれて、純粋に嬉しいことだと思う。  でもお前はまだそんな臆病になる年じゃないし、立場じゃない。やらなければ何にもならないんだ。やらなければコクーンは落ちて、世界が滅びる。そしてお前は仲間と会えない。そうなんだろう?』 『そうかもしれないけど……  でも、アカデミーだって……父さんの創ったアカデミーは、今まさに重要な時期にあるんだ。パラドクスに対応するため、社会の統治機関としての重要性もますます高まってきている。パラドクス研究だけじゃない、コクーンに関わる他の重要な政策提言や決定も行うようになっていく……そう話していたよね。創設者である父さんも引退し、今後、さらに引っ張っていく人が必要なんだ』 『それは、お前がやる必要があるのか?』 『え……当然そうだと思ってたけど。そうじゃなきゃ誰がやっていくの?』 『楽しいのか?』 『え、確かにさっきは一人が不安だって言ったかもしれないけど……。  楽しいとか楽しくないとかじゃないよ。 やるべきことがある、だからやる』 『 もちろん、お前がそんな風にアカデミーを考えてくれるのは本当に嬉しい。 しかし、きちんと方向性を示して計画に落としていき、また共有すれば、他の人がやれることなんじゃないか?』 『だって、400年だよ? その間アカデミーだってどういう方向に転ぶかわからないじゃないか』 『じゃあ聞くが、お前がアカデミーを引っ張れるのは何年だ? たかだか30年位なんじゃないのか? ああ、でも今の不摂生が続くなら、あと10年かもしれないな』 『ちょっ、意地悪じゃない?』 『 ちゃんと未来を見据えて、世の中のために動いているからこそ……他人を優先しすぎて、自分がわからなくなる。  しかし私は、 アカデミーのことを、未来に行かない理由なんかにしてほしくない。自分の本心を適当に隠す理由にしてほしくないんだ。 そんな姿を見るくらいなら、30年だけじゃなく何百年も先のアカデミーを引っ張って、コクーンと未来を救っている、そんなお前の姿を想像した方がよっぽどマシだ』 『……父さん』 『だったら。やるしかないならやるだけだ、だろう?』  "やるしかないならやるだけだ” 彼女の言葉が、僕を叱咤する。  容赦なんて、ない。  でもそれは、相手を大切にするからだ……ってわかる。 『……一度、思考をゼロに戻してみないか? 全ての前提条件をクリアするんだ。ああ、でもそこにノラと私はいないが、気にするな。  お前には会いたい仲間がいるだろう? 一緒に苦労を乗り越えて戦った人たちが。家族とも言えるほど、心を開ける仲間が。でも何らかの理由で、今一緒にはいない。そして今お前の行動を縛る制約条件は何もない。……その仲間に会いたいか?』 『……』 『どうなんだ?』 『会いたい。ものすごく……ずっとずっと会いたかったんだ。  でも、僕は本当に それを望んでいいのかな……本当に選んでもいいのかな。』 『世の中のために動くリーダーが、自分の望むもののために動いちゃいけないなんてことないんだ。  もっと、自分の気持ちを大事にしなさい。会いたいなら会いたいって言えばいいんだ。一人が怖いなら、一人じゃなくなるように動けばいいんだ』 『僕が会いたいと望んだために、何かが駄目になってしまったら……?』 『また、そうやって考える。  自分が守られてると思いなさい、ホープ。 確かにお前のデミ・ファルシ計画によって、何か大きな過ちが起きた未来があったのかもしれない。でも、セラさんがそれを伝えてくれたおかげで回避できたんだろう?   もしもまたお前が誤った道に行きかけたら、誰かが教えてくれる。そう思いなさい。大丈夫だから』 『………うん。ありがとう……』 『行きなさい、ホープ。コクーンと未来を救って、そして、会いたい人たちに会いなさい。  父親としては、少しでもお前が心温まる場所にいてほしい。未来のためだからといってお前だけがここに寂しく残ることはないんだ』 『ありがとう、父さん……』  今こうして皺の深まった手を握っていると、手は冷えているのに、すごく穏やかな気持ちになる。進んでいってもいいんだ、と背中を押される気持ち。 『母さんも、この手が好きだったのかなあ……』 『……ノラ?』 『母さんはいつも穏やかで、父さんの悪口なんて言うのを聞いたことがなかったんだけど。母さんもきっとこの優しい手が好きだったんだろうなって』 『急に誉めたって何も出ないぞ』 『急にじゃないじゃんか』  父さんは、昔を懐かしむような笑みをこぼした。 『……ノラがな。言ったんだ。忙しくて家のことを何もできなくて、お前との時間も持てないことに焦っていた時に。  ホープのためにも、あなたにしかできない仕事をして、と……。  ……私は、ノラの言う通り、お前が誇りに思える父親でいれたのかな』 『そんなこと、聞くまでもないだろ……。父さんは父さんにしかできないことをしたんだと思ってるから。家にいるよりも、ずっとかっこよくて。僕も父さんみたいに、僕にしかできないことをしていきたいと思わせてくれた。  父さんは、そして母さんは、僕が一生目標とする二人だよ……』 『………それは、何よりの言葉だな』 『……本当は、もしできることなら。  父さんには、母さんに、もう一度会わせてあげたかった……』 『ありがとう。その言葉だけで十分だよ、ホープ』 「 いつの間にか、みんなに会いたい気持ちを押し殺してしまっていました。自分のためには 何も望まず、ひたすら未来のためにあと何十年を生きる。そしてそのバトンを誰かに渡す。そういう生き方をするのだと、どこかで思い込んでいたんです。  本当は、誰とも深く心を通わせられないままに生きるくらいなら、心を通わせられる家族に会いに行きたい……サッズさんに背中叩かれて元気をもらって、スノウを一発殴って、一人頑張ってたライトさんを抱きしめたい。 それと、もちろん今まで一緒に頑張ってきたセラさんとノエルくんも一緒です。 そして、みんなでファングさんとヴァニラさんを助けたいんだって。自分だけが何もしていないなんて、嫌だ。  何が大切なのか、最初から自分の中にはあったはずなのに、色々なことを考えすぎていました。父に言われなかったら、それに気づけなかった。父のおかげではっきりしたんです」 「ホープくん……」 「………と、ノエルくん……ちょっと、苦しいですよ……」 「一人、悲しかったよな。寂しかったよな。不安だったよな」 「……ありがとうございます」 『主任、お願いしていた被検体持ってきましたか……って、それですか?』 『短期間のテストにはちょうどいいかなって思って。10日後に開けてみて、つぶれずに、そして萎れずにいれば成功。それと念のため時計もね』 『赤い薔薇の花束が時間を越えるだなんて、主任、ロマンチックですね!』 『そういう君もね。まあある程度空想できないと、時空研究なんてできませんよ』  そうして結果を待つ10日間の間に、父さんは他界してしまった。余命が長くないと言われてから、随分と短かかった。  アリサの言うように、僕は未来のことばかり見ていたけど……こうして見ると、生きている今しかできないことって沢山あるんだと思う。大切なものを大事にできる瞬間というのは、恐ろしいくらい限られている。後悔はできないんだ。病床で苦しい中一生懸命僕を諭してくれた父さんに、堂々としていたい。  とはいえ、この期間はいろいろな考えが去来し、頭の中はすごく茫漠としていた。理念だとか、理想だとか、恐れだとか、不安だとか……  そうしている内に所定の期間が過ぎ、僕は責任者として、タイムカプセルの前に立った。金属の取っ手が冷たくて、自分の手がすごく汗ばんでいた。  ゆっくりと開け始めた瞬間、すぐに、華やかで芯のある香りが僕を柔らかく取り巻いた。あ、ライトさんだ………って。 『咲いてますね! 成功ですね!』  わっと歓声が上がる。  その時、未来に行くということが僕の中で急な現実感を帯び始めた。  それまでみたいに自分の中だけで不安と期待の狭間にいるんじゃなく、もっと自分の中にある確かな事実として。  あ、僕、助けに行くんだ、って。ちゃんと時間を越えて、守りに行くんだ。って、不思議なくらい、そう思えた。 『主任ー。成功したからって、ぼーっとしすぎですよ?』 『あの、これ……、残しておけないかな? 切り花って、根っこ生えないんだっけ』 『えっ……残す、ですか。薔薇ならできたような気もしますが……』 『この花が根付いて、またきれいな花を咲かせられたらなって思って』 『やってみます。それにしても主任……ここに来てほんとロマンチックですね』 『そうかな。元からそうだったはずだけどな……』 『仕事のし過ぎだったのに、成功したらここに来て急に気が抜けちゃったとか?』 『逆に、何かのスイッチ入っちゃったとか?』 『ありえる〜。何のスイッチかな? ドキドキ!』 『スイッチか……そうですね……』 『え、何ですか?』 『みなさん、ちょっとミーティングルームに集まっていただけますか。お話があります』 『タイムカプセルの件ですが……僕が行きます。AF400年に』 『えっ』 『……本気ですか?』 『はい。僕が行って、13thアークから浮力の謎を解明してきます。父が……バルトロメイ・エストハイムも、病床で、行ってこいって送り出してくれました』 『しかし……主任自身が一番お分かりになられていたと思いますが、このタイムカプセルの安全性は保証されていません。人体にも負荷をかけると思うと、非常にリスクが大きい』 『そうですね……それはもちろん、理解しています。でもだからこそ、みんなにそのリスクを背負わせられない。  でも、誰かがやらないといけないんです。だから僕がやる』 『主任はもはや第一研究ユニットの主任というだけじゃないんです。アカデミー全体を、ひいてはコクーンを指導していく立場なんです。我々だって、主任をそんなリスクには晒せませんよ』 『……僕は、ここでアカデミーを引っ張るという役割を果たすことが責任だって思っていました。でもそうじゃなくて、僕は未来に責任があると思っていて……その責任の果たし方っていうのは、色々なやり方があると思ってます。  今、予言の書は未だにコクーンが落ちることを示してる。……今のままでは、まだコクーンが落ちる未来になっているっていうことです。  僕は……どうしてもこれを変えたいんです。  だから、13thアークの謎を調べるんです。そして浮揚技術を開発して、新コクーンを浮かべたいんです。そのために、400年後に行くんです』 『主任、それはもちろんわかっていますが……しかし、主任が行く必要はないのではないですか』 『……僕がね、行きたいんです。  今まで、人が体を張って戦っているのに自分が安全なところで見ているしかないなんてことがたくさんあった……  もう、そういうことはしたくないんです。  パージの時、勇気を持って武器を手にした母さんを……そして落下していく母さんを、見てることしかできなかった。  コクーンのためにラグナロクに変わる仲間を、見てることしかできなかった。  カタストロフィの後、仲間が遠いところで戦っていたことを知らなかった。  そんな彼女を探しに行くと言った仲間を、見送ることしかできなかった……  今だって、セラさんノエルくんが、時空を越えていろんな困難に向かってくれている。僕はその姿がゲートに消えていくのを見てるしかできなかった……そう、今までは。  でもこれからはそうじゃない。見てるだけじゃなくて、行動できるんです。みんなで開発したタイムカプセルがあれば。  ……もしかしたら13thアークが答えじゃないかもしれない。13thアークを調べても答えなんて見つからないかもしれない。だとしても、時間を越えることができるセラさんもノエルくんも一緒に動いてくれてるんです。二人なら、僕が行けないところにも行ける。13thアーク以外の道を示してくれる。ちゃんと新しい道が開けていく。そう信じているんです。  リスクなんて承知の上です。でも、安全なところで見てるしかないのはもう繰り返したくないんです……。僕は、コクーンの未来を変えたい。そのために、僕も戦っていきたいんです』  ふっと、誰かのため息を聞いたような気がした。 『……主任。正直、今のわかりません。  だって、主任が安全なところにいて見てるだけだなんて。そんな風に思う人、ここには一人にもいないんですから』 『いつ安全なところにいましたっけ?』 『ええ、戦い方が違うだけですよ』 『めちゃくちゃ戦うリーダーだよね!』 『一人で突っ込んでいくタイプのね!』 『あれ? そんなはずじゃ……どっちかって、突っ込む人をサポートする方なんだけどな』 『そう思ってるの、自分だけですよ〜?』 『そうそう。認識を変えたほうがいいですよ!』 『ついでに、一人で戦いに行くとでも思っているようなところも、改めてください。  ……それ、すごく嫌です。  だってこの前、今まで一緒に頑張ってきたって私たちに言ってくれたのは主任ですよね。違ったんですか?』 『……いや、それは違わない。絶対に』 『じゃあ、これからも一緒に頑張らせてもらえませんか?』 『そうですよ、主任』 『え、でも……』 『だって、仲間ですよね? 私たちだって。もう何年も一緒に研究を続けてきたんです。一人だけで背負うみたいなこと言わないでください』  いつもいつも、こういう困った時に思い出してしまう、ライトさんの顔。  一人で投げ出そうとした僕に、仲間だろう、って、言ってくれた。 『もしも一人だけで未来に行けるなんて思ってるんだったら、大間違いですから。  主任がAF400年に行くなら、387年間っていう長い間、誰かがこのタイムカプセルを守っていかないといけないんですよ。  主任だって、それがなかったら安心してタイムカプセルに入れないでしょう? いつ壊れるかだってわからないのに。……私たちに、このタイムカプセルとアカデミーを守らせてください。……私たちが、背中を守りますから』 『ありがとう……』  以前感じたような温かさが、体を取り巻いた。  確かにそうだ。なんで、自分一人で行くって思っていたんだろう? タイムカプセルを使うにしたって、それをちゃんと見守ってくれる人が必要で……確かに時間を越えるのは一人だったとしても、それを支えてくれる人がいなければ、成り立たないはずだった。 『……じゃあ、私も行きます。AF400年に』 『アリサ、本気?』 『後ろを支える人がいるなら、横からも支える人が必要でしょう? 設計者は私ですから、何かあった時にも対応できます。  それに……みんなの言う通り、先輩一人に全部を背負わせるわけにはいきませんから。AF13年の第一研究ユニットの仲間の分まで、AF400年でも先輩をサポートしますよ』 『アリサ……、なんていうか』 『なんですか? その顔は』 『いや、怒らないで聞いてほしいんだけど……君らしくないなあって思って』 『あはは! 確かにね!』 『仲間だとか支えるとかそんな言葉、君の柄じゃないと思ってたんだ』 『失礼な! 私にだってちょっとくらいそういう意識はありますよ!』 『ごめんごめん』 『アリサ……まじかあ。俺はアリサがいなくなると寂しいなあ……』 『ありがと♪400年後にも笑顔を振りまいてくるからね!』 『アリサがいれば、AF400年のコクーンの人たちもばっちり協力してくれるさ~!』 『やだなあ〜そんなうまくいかないってば~。でもそうね、頑張って猫かぶっとくわ☆  ねぇ先輩、私を連れてけば、そういう役立ち方もあると思いますよ?』 『アリサは、なんだかアリサだなあ……敵いませんよ』 『じゃ、決まりですね!』 『大丈夫ですよ主任、400年絶対に止まらない装置を作るなんて、研究者としても腕が鳴りますから。リスクがなんだ! リスクを恐れてたら研究者なんてやっていけないってんですよ。そのリスクとやらをどう減らしていくか考えましょう。ですよね? 副主任』 『その通りです。では、具体的なリスク軽減策を検討していくということでよろしいですか?   ……まず確認すべきは、400年間絶対に止まることが許されないミッションクリティカルなシステムであるということ。  ですから、一つには、重力発生装置から生命反応監視装置に至るまでの全てのシステムを二重化する必要があると思います。ホットスタンバイ形式とし、障害があれば瞬時にシステムを切り替えましょう。具体的には、また指示をします。  また、片方ずつ定期点検や交換を必須にしましょう。メンテナンスのマニュアルについてですが……アリサが作るよりは、実際にこれから運用していく人が作った方が操作を覚えるという意味でも有効だと思いますので、誰か2名ほど担当してくれる人はいませんか?』 『えっと、じゃあ私が』 『え、まじで? じゃあ私もやります』 『ありがとう。ではアリサは、作ってもらったマニュアルに抜け漏れがないか、内容が正しいか確認してください』 『副主任、機械そのものが何者かに攻撃される可能性だって否定できません。私たちがタイムカプセルを攻撃することなんてもちろんないですよ。でもどこかの時代でそういうこともあり得ますよね……そのときにはさすがに防ぎきれません』 『タイムカプセル自体の強度は確保しましょう。  またアカデミーの緊急時や、生命反応や機械等の異常が発生した時以外は、外から直接タイムカプセルを開けることができない設計にしましょうか。念のため、一定の条件下での手操作での解除も可能とします。  今の案をベースに、タイムカプセルの開閉については具体的な条件設定を検討してほしいのですが。アリサはマニュアル化のタスクがあるので、条件設定部分だけでも別の人にお願いしたいのですが』 『え、では、僕がやります。案を作りますんで、また打合せさせてください』 『では、これまでに挙がった対応策と担当者をまとめます。 ・装置の二重化、タイムカプセルの強度の向上(ハイラル、他担当者要決定) ・タイムカプセルメンテナンス方法のマニュアル化(ザイデル、シェール、ファレル) ・緊急時のタイムカプセルの開閉方法についての検討(ディン)  ……と、他にもありますか? 主任』 『いいえ、十分です。本当にありがとうございます。あなたが今後主任になってくれるなら、僕も本当に心強いです』 『いや、とんでもないです』 「この後、僕はAF400年までの長期構想を策定し、アカデミー本部で発表しました。  本部の人間も、さすがに目を丸くしていましたけどね。でも、第一研究ユニットの理解もあって、アカデミーはその構想に沿って動いていくということで合意を得ました。そして、コクーン全土に向けてアカデミーの方針を発表しました」 『私たちの世界は、終焉の危機にあります。私たちを支えているクリスタルの柱が限界を迎え、コクーンが崩落する……そして崩落したコクーンが原因となり地上が汚染され、人の暮らしができなくなり、人類が滅びの運命を辿ってしまう……。  それは何百年も先のことです。しかし、私たちの子供、孫、ずっと未来の人たちに対して、その苦しみを背負わせるわけにはいきません。  アカデミーは総力を挙げて、この問題に対応していきます。  大きく分けて二つの方針があります。一つには新しいコクーンを浮かべ、これを全人類を乗せる箱船とすること。現在のコクーンは落ちてはしまいますが、それまでに新しい人工コクーンに移住することで、コクーンの皆さんの未来を救うことを考えています。  そして二つ目には、現在のコクーンを出来うる限り無害化すること。人類が滅びの運命を辿るのは、現在のコクーンが壊れることによる瓦礫や有害物質が原因となります。その原因をできるだけ除去することで、仮にコクーンが崩落したとしても人の暮らせる未来を守っていきたいと考えています。  具体的な対応策についてです。  アカデミーでは、新しいコクーンを浮揚させる技術の開発を行います。……この技術が開発できるようになるのは、AF400年。そのため、私ホープ・エストハイムとその助手であるアリサ・ザイデルが、アカデミーの開発したタイムカプセルを使いAF400年に向かいます。そこでコクーンの浮揚技術を完成させ、急ピッチで人工コクーンを建造、そして市民の皆さんに移住してもらうことを考えています。  現在のコクーンについては、AF400年までの間に、有害物質の含まれる建造物や構築物を出来る限り作り変えていく予定です。  ……ここで、コクーンの皆さんにお願いがあります。  これから皆さんが新しく建物を造ったり普段の生活していく中で、土壌を汚染する物質は出来る限り使用しないでいただきたいのです。また、建物を造る際にも、できるだけ瓦礫が飛散せず、移住する際にも撤去しやすい形にしていただきたいのです。そのことが、コクーン崩落後の世界を人の住めるものにできるかどうか……未来を守れるかどうかを大きく左右するのです。  コクーンが崩落するのは、確かに数百年後の未来です。しかし、その危機を乗り越え、その先も続く未来を作っていけるかどうかは、今この時代に生きる皆さん一人一人のご尽力にかかっているのです。皆さんのご理解とご協力が得られるよう、アカデミーも全力で対応していきます。一緒に、新しい未来を作っていきましょう。よろしくお願いします』 『よう、ホープ』 『リグディさん! お久しぶりです!』 『演説、聞いたぜ』 『あ、ありがとうございます』 『名実共に全コクーンを動かす男になりやがったな』 『いやいや、本当に……リグディさんに教わったおかげですよ。リグディさんが、何もできずに焦っていた僕に道を示してくれたからです。そうじゃなかったら、こんなところにいません』 『……確かに俺は、お前が今後のアカデミーを引っ張る人間になればなと思って何か話はしたかもしれないが、こんなのは俺の想定以上だ。  俺が何か言ったからって、本人が何もしなければ何にもならない。今お前がこうしてアカデミーの指導者として存在し、ファルシのいないコクーンを作り、その未来を引っ張っているのは……全てお前の努力の賜物だろう』 『リグディさん……本当に、ありがとうございます』 『まったく、臨時政府の出る幕がないな』 『……あ』 『いいんだ。元々"臨時"なんて言葉を冠するからには、しかるべき時に退出することを想定していた。レインズが描いていた、人間が自分の頭で考えて自分の意志で動かしていく社会を作る、それができる場所が作れたなら、な。  ホープ、お前がそれを作ってくれたんだろう? バルトロメイ氏の作ったアカデミーを発展させて。  そう思い、臨時政府が頑張る必要がないと感じたからこそ、バルトロメイ氏も引退を決めたんだろう』 『……そんな、大きなこと。僕は精一杯だっただけで……』 『謙遜しなくていいんだぜ。  さて、臨時といっても思ったよりも長くなっちまったが、そろそろ役割を終える方向に行く。また、一揉めするだろうけどな。アカデミーに主導権を奪われることを恐れる奴らもいる。臨時政府にもアカデミーにも話のわかるバルトロメイ氏はいなくなり、アカデミー側からも問答無用のリーダーがいなくなれば、余計だな』 『……すみません……僕は』 『いや、もうこれは俺の話だ。お前はこっちの心配をする必要はないんだ。未来だけ見ていればいい。  ……むしろ、嬉しいんだ。  シド・レインズが理想としていた、人間が自分の頭で考えて自分の意志で動かしていく社会。俺はその理想に惚れて、無我夢中でやってきた。それがどうだ? ファルシに動かされていることを知らなかったとはいえ、そのシド・レインズをこの手で撃ってしまった……  旧聖府関係者を議会から追い出しても、その事実が俺の中から追い出されることはなかったさ。シド・レインズも、理想も、自分の手で殺してしまったんだと。  でも、今は違う。その理想は、ホープ、お前が叶えてくれるんだろう。そしてコクーンも救って、その理想を実現し、未来につなげてくれるんだろう? あの時後ろに隠れていた少年が、こんなに育っちゃってなあ。ははは……こんなに嬉しいことなんて、この13年間なかったさ』 『……リグディさん』 『俺は残りの人生をかけて、バルトロメイ氏もホープもいないアカデミーがちゃんとコクーンを動かしていけるよう、陰ながら力を尽くす。だから、お前は安心して未来に行って、コクーンを救うんだ』 『…………』 『どうした?』 『いえ、すごく責任が大きいなって思って……。結果を出さないとなって』 『迷うな。お前が迷うと、みんなが迷う。  でも、別にお前だけが責任を負ってるわけじゃないんだ。それぞれが、それぞれの役割を果たす。それだけだ』 『……はい、頑張ります。  アカデミーのみんなも、AF400年までの間、タイムカプセルと、アカデミーと、コクーンを守るって。だから安心して未来に行ってこいって言ってくれて……』 『いい仲間に恵まれたな』 『……はい』 『そうそう、俺はもう会えないんだろうが、ファングとヴァニラとライトによろしくな。会ったら、リグディが会いたがっていたと伝えてくれ』 『……スノウとサッズさんは?』 『男同士で会いたかったなんて気持ち悪いだろ。やめてくれよ』 『はは……わかりました。よろしくくらいに言っときます』 『お前も、元気でな。……もう会えないが、ずっと応援している。頑張れよ』  まっすぐに差し出された手は、すごく温かかった。 『ありがとうございます……リグディさんも、お元気で』  これまでずっと、不安と希望の中で、やるしかないからやるだけで。  これが本当に未来につながっているのか、確証がなくて。  でも、アカデミーの人たちも、父さんも、リグディさんも背中を押してくれた……  不安に思う必要なんて、ないんだ。 「そしてタイムカプセルに入り、目覚めたのは、AF400年でした」 (3) 反発も衝突も(終) へ
コクーン開発、まあ紆余曲折だったんでしょうね〜。なんかスラスラとできちゃった風に見えましたけど……。バルトロメイさんは、やっぱFF13の時の「おまえの家はここだ!」が好きです。 アリサ編 Find Your Way (1) 私だって、に対応しております。