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長い文章ですので、できるだけ目に優しい環境でお読みいただければと思います。

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トップページ > > FF13 > 私は飛べる

木漏れ日

 自分でも、変かもって思ってた。  それでもね。 「……質問」  っていう言葉に、つい、懐かしい気分になったの。 「はい、ノエルくん! どんな質問かな?」  隣にいるパートナーに、言葉を向けた。 「……えっと、…………セラ、先生?」 「なあに、ノエルくん。先生、今ならどんな質問でも答えるよ?」 「セラ先生が、出来の悪いノエルに特別に教えてくれるクポ〜!」  モーグリも、ステッキを振りながら応援してくれる。木漏れ日が反射して、きらきらきれい。 「えっと、先生、どんなテンション……?」 「ノエルくん、いい質問!」  人差し指で、飲み物の紙コップを持ったまま驚いた顔のノエルをぴっと指す。 「……あのね、"将来の夢"、思い出したの」 「将来の……夢?」  うん、と頷く。私たちが今いる場所を、見渡しながら。  緑に囲まれた、開放感のある公園。近代的なアカデミアだけど、実はこうして緑のある場所がある。  木漏れ日の中、芝生に寝ている人たちもいれば、レンガ造りの通路をおしゃべりしながら通り抜けていく人もいる。テラスのお店で椅子に座って、本を読んでる人もいる。  私たちは、芝生に座っている。少し歩き疲れたから芝生に座りたい、と言ったら、ノエルが一言。 『いいけど。……草、足に痛そう』  待ってろ、と言って、テラスからブランケットを借りてきてくれた。  そして私はブランケットに、ノエルは芝生に座った。草ってこんなに揃って生えるんだな、とノエルは感心していたけど、人がちゃんとお手入れしてるからだよと言うと、手入れしてる奴すごいな、ともっと感心していた。  と、——そんな風にして、私たちは公園にいる人々を眺めている。 「アカデミーって、ホープくんみたいに研究してる人も多いけど、学校もあるでしょう?」 「……ああ、そうだな」  ここにいる人の大部分は、同じ歳か少し下くらいの学生さん。ノエルと同じくらいかな。まだ少し幼さが残ってて、屈託なく笑ってるところは、何だかかわいいな、とも思う。  それとさっきも、教室で机に座って、意見を交わしたり、先生の話を聞いてるところを通りがかった。 「前は、私もあんな感じだったんだよね。……私も"大学"に入ろうって思って、勉強してたんだ。  それと——私、先生になりたかったんだ、って思い出したの」 「……なりたかった? 先生に、なったんだろ?」 「そうだけど。——生徒のみんな、置いてきちゃったから。今は先生じゃないから」  ネオ・ボーダムの子供たちのことを、思い出す。  今は、AF400年。みんな、この時代にはもういない。——みんな、あの後どうやって暮らしたんだろう? ちゃんと食べてたのかな? 魔物は大丈夫だったのかな? 泣いたりしなかったかな? ……ごめんね、せっかく勉強しようって思ってくれてたのに、先生がいなくなっちゃって。みんな、ノラのみんなの言うこと、ちゃんと聞いてたかな。レブロもガドーさんもユージュもマーキーも、私のこと、怒ってたかな——  ゲートを使えばまたAF3年のネオ・ボーダムに戻れるってわかってる。それに、早く私がパラドクスを解消すれば済む話。そうすれば、元通りになるはずなんだから。……それでも、ネオ・ボーダムのみんなのことを考えると、胸がちくちくと痛む。  ごめんね。こんな先生で……… 「そっか。……でも」 「?」 「生徒なら、ここに一人」  一番最初に出会った日みたいに、親指で自分の胸を指して、笑う。  ……そう、こうやって励ましてくれる人。 「ありがとう、ノエル。……そうだよね」 「モグも、セラの生徒クポ〜!」 「うん、モーグリも、ありがとう」  よしよし、と撫でると、ポンポンを揺らして、嬉しそうに飛び跳ねる。ふふ、かわいいな。  ノエルは芝生に両手をついて、遠い青空を見上げながら、繰り返すようにぼんやりと呟く。 「ふうん。……先生、か。将来の夢、か」  でもね、そういう顔、気になっちゃうんだよ。 「もう、ノエル!」 「えっ?」 「今、俺には関係ないって顔したでしょ」  呼びかけられて一瞬私を見て、また目を逸らす。 「……そんなことない」 「セラ先生には、何でもわかるの」  ——話していても、ノエルの笑顔がなくなる時がある。  彼を知らないユールとカイアスの話をする時と……そして、パラドクス解消後の未来の話をする時。  ……私は、その表情に気付いていながらも……うまく、ノエルの話を聞いてあげることができなくて。 「ね? この前も言ったけど——新しい未来には、ノエルもいるんだからね」  手を伸ばして、ノエルの大きい両手を握って。目を見て、念を押すように。 「……うん」  無理矢理言わせてるのかもしれない。……それでもいい。 「将来の夢! ノエルは、何になりたい?」 「……将来の夢」 「ふふ、進路相談も、先生の役割の一つなんだよ。生徒が将来どんな仕事をしたいかを聞きながら、一緒に考えるの」 「へえ……そうなんだ」新しいことを知った、というように、頷いてる。 「でも、考えたことなかったな」 「わかってる。今までは、夢なんて言ってる状況じゃなかったんだよね……? でも、考えてみて。未来が変わったら、何をしたいか。少しでもいいから」  ……人は、見たことのないものは想像できないって言う。  ノエルには今まで、未来の選択肢が——私たちはあって当然と思っているものが、……何も与えられてこなかった。  だから、今の私は、ノエルにとってすごく難しいことを言ってるかも、ってわかってるの。  だけど……ね。 『ひょっとしたら、俺が存在しない歴史になったりしてな』 『可能性あるの?!』 『あくまで、可能性。そうなっても……いいんだ。出会わなければ、あんな哀しみもなかったんだから』  ……あんな風に、言ってほしくないから。  未来を変えたら自分は消えてもいいなんて……思ってほしくないから。  変わった後の未来に自分が生きてるイメージを、少しでも持っててほしいから—— 「……うーん……」  飲み物を飲みながら、空を見上げたり、遠くに行き交う人を見たり、目を閉じたりする。 「アカデミアって、どんな人がいたかな……」  あ。頑張って、考えようとしてくれてるんだ。 「………服屋……?」 「あ、服! いいね!」少しでも考えてくれたことが……すごく、嬉しい。「服もね、作る、売る、着る、色々あるよ!」 「作るはわかる。売る……もわかるな、人の似合う服を選ぶのが楽しいって言ってる奴、いたもんな。でも……着るって何だ? 着るなら、今だって着てる」 「えっとね、モデルさんって言って、誰かが作った服を着て、歩くの。こういう服があるんですって、色んな人に知ってもらうんだよ」 「……着て、歩くだけ?」 「そんなことないよ。見てもらうために、服の魅力を最大限に知ってもらうために、いろんな工夫をしてるんだよ。ノエルなら、きっと人気者になるよ」 「ふうん」  ……興味、なさそう。  まあ、ノエルの感覚だと、イメージできないよね……。服は服だろ、くらいの感覚でいそう。……でも、ノエルもユールもカイアスもたくさん装飾付けてるから、信仰の一部としてであっても時詠みの一族は服飾に関心があったと思ってたんだけど。違うのかな。人によるのかも。 「服よりも、まだ食いもんの方がいいかな」 「あ、食べ物! いいね!」 「でも俺、モンスターの丸焼きしかできないからな。それでもいいのか?」 「それもありかも。例えば、都市生活に慣れたアカデミア市民の皆さんだからこそ、力強いワイルド系の食べ物も逆にウケるかも! ほら、ホープくんのファッションがこの時代でリバイバルブーム起こしたみたいに!」 「ああ、アカデミアクイズでも言ってたな。新鮮、ってことか」 「うんうん! それで、ノエルも売り子さんをやればいいんだよ。ほら、よく道歩いてると、声かけられるでしょ? ノエルもあんな風に言えばいいの」 「いらっしゃい! アダマンタイマイ丼、うまいぞ! えっと……ワイルドな料理が自慢だぞ……って? ……おい。ここまで来て、笑うなよ」 「……だって」 「クックックポポ……」 「……モグも」 「放せクポ! 悪いなんて一言も言ってないクポ! セラも楽しんでるクポ!」 「うん、すごくよかったよ、ノエルっ! ふふ」  ごめんね、ノエル。今のは、嬉しくて……楽しくて、笑っちゃったんだよ。……だって、ノエルが今みたいに言えてるなんて、すごく素敵な世の中だって思わない?   まったく、と言いながら、ノエルがモーグリを離す。クポポッ、と、バタバタもがいてたモーグリがふわふわと戻ってくる。  ノエルとモーグリも、なんだかんだ言って仲良いんだから、って、いつも思うんだよね。 「まあ……でもそんなもんかな。俺……狩りしかできないけど、平和な世の中じゃ……きっと狩りは必要ないもんな」 「あ……でも、そんなことないよ。狩りをしなかったとしても、戦えることはやっぱり強みになるよ。目の前に戦いがなくても、何かあった時に"守る"人は必要だから。それは、平和な時から、準備しておかないといけないことなんだよ」 「ふうん。……守る……か。それなら、俺にもできるかな」 「うん」 「平和な世界でも俺ができること、あるのかもな」 「もちろん、そうだよ。食べ物を人に味わってもらうことも、人を守ることも。ノエルができること、他にもたくさん、たっくさん、あるんだよ」  そっか、って嬉しそうに笑う。よく考えたら草刈りもあるなって言って、芝生を撫でるように触る。こんな丁寧な仕事が俺にできるかな、って真面目な顔で自問しながら。  ねえ。パラドクス解消まで戦うことだけが、ノエルの人生の全てじゃないんだよ。  そうやって、その後に訪れる平和な世の中に、もっと夢見てほしいの。そこに自分がいるんだって、信じてほしいの。 「——でもやっぱり、まずは、生徒になりたい」 「えっ?」 「勉強、教えてくれるんだろ? セラ先生がさ」 「……私の、生徒?」 「ばあさんに教わってたって言ってもさ、知らない知識もまだまだあるから。俺、新しい世の中のことたくさん覚えたいんだ」  ……世の中のこと、教えて、覚える…… 「俺さ、生きるために狩りもしなきゃいけなかったから、勉強、遅れてると思うけど。暮らしの心配が減って、ここにいる奴らみたいに真面目に勉強したら、もっといろんなことがわかるかな」  公園にいる学生の人達を見ながら、眩しそうに、言う。  ……そっか。勉強だって、ノエルにとっては……—— 「……うん、もちろんだよ。大丈夫だよ、ノエルなら」  ありがと、って頷いてくれる。  ねえ、ノエル。こうしてノエルの言葉を聞いてると、"先生"っていう職業が、すごく大切で……尊いもののように改めて思えてくるの。  知識がほしいのに、必要なのに、それを得る機会が限られてる人もいる。先生は、そういう人達に、ちゃんと知識を伝えていかなきゃいけない……。そうして、"未来"を作っていく。責任の重い、でもすごく大事な仕事。  先生になりたいって思っていたし、一時は実際に学校も作ってもらって、先生になったけど。  "先生になる"ということの意味を、今までの私はここまでちゃんと考えられてたかな……?   ——……私はいつもこうして、色々なことを教えてもらってる。  ノエルの何気ない言葉の一つ一つが、私を変えてるんだよ。少しずつだとしても、もっともっと……強い自分に、なるために。 「……じゃあ、ノエルが生徒なら、私も勉強しないとね」 「先生も、勉強するのか?」  意外そうな顔。 「先生は、一生勉強なんだよ。生徒にちゃんと教えられるように、いろんなことを知らないといけないの。特にノエルは、きっと色んなことに興味を持って知識を吸収していくだろうから、教える方も頑張らなきゃ。うん、私の新しい目標! きっと、教える教えられるじゃなくて、二人とも勉強だね」 「そっか。そうだな」 「モグも! モグも教わるクポ!」 「ああ、一緒にセラ先生に教わらないとな。……あ、違うか。三人で勉強、だな」 「うん!」  三人で、勉強……か。  うん、そうなったらいいな。そういう未来が、来るなら。  パラドクスが解消して、世界が、元通りになったら。そしたら。  ……そしたら——……?   ううん、私が信じなくて、どうするの? みんな一緒に、生きるんだから。みんな、一緒に……  つんとする鼻を、何とかごまかす。  ——気付いたら、沈黙が流れていた。  ……ふと、ノエルが、腕を左右に組んだり、首を力なく左右に振ったり、手を神妙に顎に当てたりしていたことに気付く。そこでようやく、希望と不安の混じった空想から戻る。 「……ノエル。どうしたの?」 「えっ? ……あ、いや……何でもないんだ」  慌てたように手で紙コップを持って、ストローを口に挟むけど。  ——ずっずずっずずずず。 「ノエル。……もう飲み物、入ってないよ」 「……不正解。氷水、入ってる」 「そっか。でも、音立てて飲むのはよくないんだよ。この前も言ったよ」 「覚えてる。でもコップ白いから、残りが見えなかっただけ」  何、この子供みたいな屁理屈。 「もう。……それで、ごまかしてるつもり?」 「……いや……その……ちょっと……」  絶対に変って思うのに、ふいっと顔を背けて、また、沈黙。 「ノエル」  負けずにじっと見つめる。  そのうち両手を上げて、降参、と小さく呟いた。 「——あのさ」  溜め息まじりだけど、それでもちゃんと目を見てくる。 「うん」 「……セラ。今までも言おうと思って、でも言えなかったことがあるんだ」 「……言えなかったこと? どんなこと?」 「今までは、黙っておこうと思ってた。でも、今だったら、セラも聞いてくれるかと思って……さっき一番最初に質問、って言った時は、ほんとはその話をしようとしてたんだ」 「ノエル。……私、何でも聞くよ?」  ——今まで、ノエルはなかなか思ってることを話してくれなかった。辛いことがあっても、悲しいことがあっても、そっと自分の中だけにしまっておこうとする。それが、ノエル。  私だけがいつも助けられてた。でも本当は、もっと私だって助けたいって思ってた。話を聞いたからって、どうにかしてあげられるわけじゃない。でも、少しだけでも力になれたら、ってずっと思ってて——  ノエル。……話してくれるの?  「その……怒らないで、聞いてほしいんだ」 「うん」  ……怒る?  「その……質問。セラって——本当に、先生に向いてる……のか?」 「…………えっ?」  今、なんて?  「えっと、ノエル……その」  何それ。私が色々心配してる時にそんなこと考えてたの? それで、私が先生に向いてないって言いたいの? だめだめそんな風に詰め寄ったらそれ以上言ってくれなくなっちゃう。せっかくノエルが言ってくれたんだからちゃんと聞かなきゃ。ほら一応先生なんだからね。それに一応年上なんだしね。 「ノエル、……どうしてそう思ったの?」 「セラって、その、たまに、天然……だろ?」  ……天然?  「……覚えてるだろ? ネオ・ボーダムで出会ってから、ずっとそうだった」 『……へえ。これが畑か』 『見たこと、ないんだ。作物、育てなかったの?』 『土地が枯れて、作物は全然駄目だった。だから、みんなで狩りをして暮らしてた。でも、獲物も、段々減っていったけど……』 『……ねえ、ノエル。昨日、最後の人間って言ったよね。あれは……どういう意味?』 『そのまんまの意味。……俺が生まれた時、人間はこの村の人より少なくて——最後は、俺一人になった』 『そうなんだ。最後の、一人……  っていうことは……ノエルを手厚く保護しないと、人間が滅んでしまうの?』 『——……あのさ。人を、珍獣みたいに言うなよ……』 『どうしよう保護って何すればいいかな? まず、食べ物をあげて——あっ、昨日みたいに戦ってもらっちゃ駄目だよね、怪我しちゃうから。それから、それから——』 『……もう十分、保護されたから……大丈夫。それ以上考えなくてもいいぞ……』 「……とか」 「………ああ……」 『ねえ、ノエル。オーパーツって、どんなもの?』 『……わからない。この時代にあってはならないもの……ってことしか』 『あるはずのないもの……あっ、もしかして、ノエル?!』 『……仮にそうだとしても、俺はどうすればいいわけ?』 『じゃあ、少しかがんでくれたら、私がノエルを抱きかかえてゲートにかかげるよ。そうすればきっとゲートが開いて、別の時代に行けるんだね』 『へえ、見た目より力持ちだな。……じゃなくて、……本気で言ってる?』 『そうだね……ノエルを抱えるにはちょっと筋力弱いかも。でもお姉ちゃんに会えるなら、今からでも鍛えて筋肉ムキムキになるよ! 待ってて!』 『……ごめん。ムキムキなセラは見たくないから——ちゃんと、俺の他にオーパーツがあるって信じよう。うん、それがいいな』 「その後も、ヤシャス山でさ。研究員のやつと話しただろ?」 「……えーと……」 『ぼーっとしていたら危ないですよ。パラドクスの影響で、魔物がうろついていますから』 『パラドクスって……もしかして、この日蝕?』 『はい、太陽を隠したのは、巨大ファルシ=フェンリル。およそ200年先に現れると予測されていた存在です。それが——』 『こんなに早く現れた。時空が歪んでるってわけか』 『っていうことは。あっ……まさか、モーグリが人間を侵略しようとしているの?!』 『……セラ』 『ククククポ……よくぞ見破ったクポ〜!』 『なんということだ! 今こそ人類の叡智を結集してファルシの脅威に立ち向かわねば!』 『楽しそうだな、おまえら……。俺も、混じりたいくらいだよ』 『えっ、混じってよ。熱烈歓迎!』 『……口真似? ……ごめん、失言。遠慮しとく。なあセラ、今考えることは他にあるだろ? ……問題は二つだ。どうしてこの時代に日蝕が起きたのかと、なんでこの遺跡で起きたのか……だ』 『ああ、ファルシの気まぐれじゃない? ほら〜、ちょっとこの遺跡だけ暗くしたいなーとか、そんな気分だったんだよ〜』 『そんな気分もあるクポね〜』 『………どんな気分だよ。斬新な発想だけど……却下。……セラ、頼むから真面目に考えてくれ。セラ先生がふざけるから、モグが調子に乗るんだ』 『はーい、わかりました。ノエル先生』 『……まさかの、逆転?』 「他にも、ホープに、どうして大人になったの? って聞いたこともあったよな。あれにはホープも困ってて——」 「……もういいよ、ノエル」  自分の発言とはいえさすがに我慢できなくなって、言葉を遮った。……でも、ノエルはそれでも続ける。 「俺、"先生"ってばあさんしか知らないけど、きっと先生って、もう少しちゃんと考える。セラは正直、先生っぽくない」 「も、もう……やだな、ノエルってば! 冗談だよ、冗談!」 「本当に? 俺が、何回途方に暮れたことか……」 「暮れたの?!」 「……暮れるだろ? 普通。俺が真剣に話してるのに、セラは全然真剣に聞いてない」 「真剣じゃないなんて……そんなことない」 「そんなことある。今までも、何回も」  ……今日のノエル、なんだか厳しい。 「今まで言われたことなかったのか? スノウも大変だよな、恋人がこんなんで。ライトニングだって、家に帰ってずっとこういうの聞かされてたのかな。……俺、同情」 「お姉ちゃんやスノウには、ここまでふざけてなかった……と思うし」 「へえ。俺にはふざけてるって自覚あるんだな?」 「……えっと……その」 「——ま、いいんだ。珍獣、果てはオーパーツ。オーパーツに至っては、人じゃないどころか無生物。セラにとって、俺はそういう扱い。真剣になんて、聞けないよな。うん、納得」 「……意地悪」 「どっちが?」  胸を張って腕組みをして、横目でちら、と私を見る。どこか勝ち誇った表情。言い返せないだろ? とでも言いたげに。  違うのに。……何て言い返そう。 「あ! わかった」 「何?」 「きっと、ああ見えてオーパーツも生きてるんだよ!」  手を額に当ててうなだれる、ノエル。 「えっと、一応聞くけど。……どこが?」 「ほらオーパーツって、きらきらしてるでしょ? あれはきっと、オーパーツに秘められた生命の輝きなんだよ!」 「クポポ……知らなかったクポ。さすがセラ、聴く者をうならせるいい洞察クポ!」 「……うなるの意味が違うだろ?」 「そんなことないよね、モーグリ」 「……あのさ。最大限譲歩したとして……結局、人じゃないだろ?」 「あ、わかっちゃった?」 「……セラが今わかった、の間違いじゃなくて?」 「ノエル、安心するクポ! モグも人じゃないクポ! 大丈夫クポ!」 「それ……慰め?」  ついにはがっくりと肩を落とす、ノエル。  失礼なやつクポ、って、モーグリがぷりぷり怒ってる。  つい、笑いがこぼれちゃう。 「……笑うなよ、セラ」 「だって……おかしいんだもん」 「ひどいな。……反省してる?」  げんこつが伸びてきて、コツン、と頭をつつかれる。 「してるってば。大体、先生に向いてないっていじめられたのは私なのに」 「それは、いつも俺がセラにいじめられてるから。たまには仕返し」 「……ごめんね。そんなに、嫌だった?」  確かに変なことばかり言ってるのは、私なんだけど……。  そう聞くと、頭を傾けて、ちょっと考えて。 「……まあ、そういうのも、助かってたかな」  屈託なく、笑う。 「この旅も、たまに大変だろ? あとどれだけパラドクス解消すればいいのかも、カイアスのやつが何考えてるかも不明だし。もしそれを一人で旅してたら? って考えると——やっぱり、一人じゃなくてよかった。途方に暮れたって……全部、大事。全部、救われてた。モグにもな」 「モ、モグもクポ?! ノ、ノエル……! たまにはいいこと言うクポ!」 「たまにかよ!」  木と木の間、私たちの間を、柔らかい風が通り抜けていく。  その短い言葉に、どれだけの苦しい思いと経験が詰められているんだろう……?   ずっと、聞けないでいたけれど。  ……今の私にできるのは、ノエルが辛くないよう、仲間として隣にいること。……そう、それだけだから……。 「——じゃあ、もっと天然で行こうかな?」 「ごめん、セラ。それは勘弁」 「たったさっき、天然でもいいって言ったじゃない」 「言ったけど。……たまになら。いつもは困る」 「いつもじゃないよ。たまに真面目になるから」 「たまにしか……真面目じゃない先生……?」 「……やっぱり、駄目かな?」  そう言われると弱いのも、わかってるんだけど。ノエルは、頭を掻いて。 「別に……駄目じゃないけど。セラは、セラのままでいい」 「じゃあ、モグもモグのままでいいクポー? ノエルはモグがいて嬉しいって言ったクポね」 「……前言撤回。調子に乗るな」 「えっ? じゃあ私も私のままじゃ駄目ってこと?」 「そこまでは言ってないだろ?」 「セラはよくてモグはよくないクポ? 差別クポ?」 「……ああ、何なんだ! ……セラは、セラのままでいい。モグも、モグのままでいい。で、三人で勉強する。これでいいんだろ? もう、好きにしてくれ!」 「さっすが、ノエル! やったね、モーグリ!」 「クポポポポ〜! 嬉しいクポ〜!」 「……はあ。敗北……」  ……それでもね。ノエルが、苦笑いしながらも、微笑みかけてくれるから。  すごくすごく温かくて、守られてる。そんな気持ちになるの。  ああ、私。この人がいたから、ここまで来れたんだなぁ、って。いつも、励ましてくれてた。冗談を言える余裕をもらってたのは、私のほう。  ……今度は、私が守れるようにならなきゃ。  強く、なろう。早くパラドクスを解消して、お姉ちゃんに会いたい。スノウも、迎えに行かなきゃ。ホープくんの頑張りに、報いたい。そして、ヴァニラとファングに、ありがとうって言いたいよ。  そしてノエルにも、幸せな、未来……  ……でも——  "あれ"が。あの黒い影にいた女の子が、もし見間違えじゃないのなら。  この旅が全て終わった時……その時、そこにあるのは……——?   ……ううん、だめ。 「……次の、時代……行かなきゃね」  考えても、仕方ないの。今は、前に進むしかない。ノエルと私は、未来を信じて、前に進むって決めてるんだから。 「あと少しだけ」  陽の光と影が、ゆらゆらと、交互にノエルの顔に落ちて。  空を見上げたまま、眩しそうに、すっと目を細める。それでも、その陽の存在に感謝するかのように、嬉しそうに微笑んで。  早く先へ、と思うのに。  心のどこかで、この時間が続けば、って、思ったの……。      
リクエストありがとうございます! 「ノエセラモグでほのぼの話」です。アリサのオーパーツを使ってアカデミアを発つ直前くらいのイメージです。当サイトで言うといつか帰るところ(5)の最後、わたしは飛べる(1)の前あたり……? ほのぼの(ほんのり心の暖かさなどが感じられるさま by goo辞書)を目指したんですが、ん……ほのぼの?ですかね……? 一応これは家族的に(?)書いたつもりなのですけど……わーやっぱノエセラ愛しいな……と一人でしみじみしちゃいましたよー ついつい……。 それと、プレイ当時はギャグ系(?)選択肢はあまり選んでなかったんですが、今になってみればもったいないことをしたなと思いますw 改めて、リクエストありがとうございました!少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。