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トップページ > > FF13 > いつか帰るところ

いつか帰るところ(2)-1

(1)-3へ 会いたいって思ってくれる?  ヲルバ郷 AF200年 「時空の歪みがとんでもないクポ。過去と未来が絡み合ってるみたいクポ」 「空間そのものがパラドクスだね」 「……過去と未来が、この時空で交わってるとすれば、全部の謎を解けば、今起きてるパラドクス現象も終わる?」 「いい推理クポ!」  ヲルバ郷。過去と未来の時空が、この地でぶつかり、一つの異空間を形成していた。時間が、暗闇に飲み込まれる……そう思った。  今までと同じで、パラドクスを解消してしまえば、この空間も元通りになる。理解してる。  でも、少しだけ考える。  消えるべき未来も、何とか現在に残せないのかって。  俺の目標は、みんなが生きてる未来。死に向かうんじゃなく、生を紡いでる世界。その中で、セラがライトニングと再会して。子供達に囲まれて、幸せに笑ってる未来。もちろんそれが、第一優先事項。  だけど、もしそれが叶った後なら……少しくらいは、夢見てもいい?   俺の、未来。  パラドクスが解消したら消えるかもしれない。でもそうじゃなくて。過去と未来がぶつかったとかで、奇跡的にどこかに残っていて。俺の村の奴ら……俺の家族もみんな生きてて、リーゴも、ナタルも、ヤーニも、もちろんカイアスも、そしてユールも……笑い合って、支えながら、静かに生きていく。どんな暮らしになるかなんて、想像もつかないけど。  少しだけ、そんなことを夢見ることは、許される? ……もしも、どこかの予言の書にそんな風景が映っていたら、どれだけ嬉しいだろう。  そんなことを考えながら、セラが予言の書を起動するのをぼうっと見ていた。  その時、セラが、何かに気付いたように振り向く。……起動した反動で後ろに倒れ込むのを支えて、立ち上がらせる。その間にも、目の前に広がっていく映像。  晴れ渡る日。ネオ・ボーダムで見たような、クリスタルの柱に支えられたコクーン。  駆け寄って、ライトニングと抱き合う、セラの姿。 『お姉ちゃん……』 『許してくれ、セラ……』 『おいおい、それはこっちのセリフさ。結婚を! 許してくれ! なっ!』  横から出てくる男。婚約者? 随分大男。セラが、すごく笑顔。  それと見た目は違うけど……ホープと、見たことのない奴らもいるけど。言葉では口々にからかいながらも、みんな笑顔でいる。 『頼む! 誓うよ。絶対に! 幸せにする!』  ライトニングは、やれやれ、かなわないな……と頷いて、信じるよ、と微笑む。そんな平和な場面。  俺はこの場にはいない、でもわかる。きっとこれが、セラが覚えてる光景。  よかったな。ほら、セラが覚えてる記憶、間違いじゃなかったんだ。みんな覚えていなかったけど、大丈夫。セラが正しい。だから、自信を持っていいんだ。  ……そう声をかけようとした矢先、突然色んな映像が入り乱れる。コクーン。誰かの走る姿。崖のふちにつかまる。……ライトニング? 落ちていくコクーン。  ホープが、ナイフをセラに渡す。……ネオ・ボーダムで拾った、ライトニングのナイフ。  カイアスが……映る?   そして最後には、ナイフを手に、泣き崩れるセラの姿。そこに、ライトニングの姿はない。 「予言の書が、書き換わった……?」  膝から崩れる、セラ。 「……まさか」  確かにヤシャス山で見た予言の書も、パラドクスで乱れていた。誰かが歴史を変えれば、予言の書の映像がそれに合わせて変わることもあるのかもしれない、とは考えていた。  ……本当にそんなことが?   ライトニングがいた歴史から、いなかった歴史へ。でも、どうして。 『未来が変われば、過去も変わる』  と、映像に、知ってる姿が映る。あの長身、長い黒髪、見慣れた大剣。……カイアス?! 「続きがあるの?!」 「今の続きがな」  違う。映像じゃない!   "カイアス"は、その大剣で映像を切り裂き、宙から地面へと着地する。  俺の知ってるカイアス? わからない。でも、雰囲気はヴァルハラで見たカイアスを思い出す。  危険だ。わかる。反射的に、セラを隠すように歩み出る。 「……カイアス!」 「あなたたちは、視てしまった」  後ろから聞こえたのは、幼さのある、だけど落ち着いた……聞き慣れた声。瞬間的に、振り返る。会いたいって思ってた姿。歩いて、近づいてくる。 「……ユール?!」  ユールの肩を、つかむ。  俺の知ってる、……俺の、ユール? だって、その緑色の瞳も、銀色の長い髪も。ヤーニと二人で、守ろうとしてた。カイアスに勝って、自分こそが守るんだって思ってた、あのユールと全く同じ。  だけど、俺の顔を見ても、一瞬たりとも笑いかけてくれなかった。 「あなたのユールは、わたしじゃない」  ……時詠みの巫女は、転生を繰り返す。そう言ってた。  それでも、期待してた。俺の時代のユールとは、違うのかもしれない。でももしかしたら、今の時代のユールも、俺のことわかってくれるんじゃないかって。  だけど……ユールは。表情を変えないまま、俺じゃなくて、カイアスの隣に歩いていく。 「一人として、同じユールはいないさ」  そうは言うけど、カイアス。あんたはここでも、ユールの一番近くにいるのか?   ……そもそもなんでここに。 「どうして、この時代へ……」 「君たちが、時間の中を飛び回っていることは知っている。ユールが、よく"視て"いるからね」 「……俺たちを視てるのか?!」 「君は、その意味を知っているようだな。ならば、そういう者に私が加える制裁のことも、わかっているはずだな?」  誓約者の、制裁。それは…… 「ちょっと、待って! 制裁ってどういうこと?!」  戦いたくない。あの時も、戦いたくなかった。でも。 「時の運行は守られなければならない」  カイアスが、セラに斬りかかる。駄目だ! 戦いたくないなんて、言ってられない!  「カイアス!」  剣を構えて、挑む。今の俺の持てる力で!   カイアスが狙うのはセラ。少しでも、こっちに注意を向けさせないといけない。何のための二刀流? ……カイアスに、勝つため!   カイアスとセラの間に割り込むように、身体を滑らせる。左右両方から、カイアスの体躯に剣筋を叩き込む。セラも、カイアスを距離を取りながら魔法をぶつける。攻撃は当たっているはずなのに、それでも、全く意に介している様子がない。どうして。何か仕掛けがあるのか?  「……くそ!」 「罪は君たちの血であがなえ」  連続する衝撃波。セラを守ることだけで、精一杯。二人とも、倒れ込む。反撃なんて、できない。  それに—— 「……やめよう、カイアス。やっぱりあんたとは戦いたくない」  ゆっくり近づいてくる。地面から、見上げる。大きい。小さい頃から見上げてた。……あの頃から変わらない姿。 「命乞いか? 無様だな。戦う者であれば知っているだろう? 弱者は、強者に従う。戦いたくないなどという戯言は、私に地を這わせてから言うのだな」 「それでも! 嫌だ。あんたにとっては俺は不出来な弟子で、だけど……一緒に暮らしてた。一緒にユールを守ってただろ? 仲間だっただろ?」  勝手に出ていった。それでもユールがあんたを信頼してたのは知ってるし、俺も、あんたがいるから安心してたし……だから、一緒にいてほしかった。 「……巫女を守る守護者を名乗るか。ならば尚更、何故君は時を変えようとする?」 「俺は! みんなが生きてる未来を作りたくて! ユールとあんたにも、そこにいてほしくて……」 「残念だが。……私は、君の知っているカイアスではないよ」  俺の知ってるカイアスじゃ、ない?   "カイアス"は俺の頭の先で足を止めた。その声と同じように、静かに、だけど迷いなく、大剣の切っ先を俺に突きつける。 「君には温情をかける義理もなければ、価値もない。その身をもって、歴史を変える重みを知れ」  その大剣に殺気が込められた、と思った。 「……必要ない」  空気がしん、と静まった気がした。投げ込まれたユールの言葉に、カイアスの大剣が、下ろされる。 「既に変わってしまっている」  ゆっくりと振り向き、その大剣を地上に突き立てる。ユールに跪く、カイアス。……どこかでも、見た光景。 「受け入れるのか、ユール?」 「うん」  絞り出すような声に、ユールが小さく頷く。  ……助かった……のか。でも。  ユールが、静かに近づいてくる。髪留めを外す。……記憶にある、長い銀髪。 「……未来が変われば、過去も変わる。戻ったら、あなたが望んだ過去」 「帰ろう、ユール。これ以上、時を視ないように」 「うん」  カイアスが手をかざすと、その場に金色の渦が生み出される。……時空の、歪み。 「さあ」 「ま……待て!」  立ち上がる。……だけどユールは振り向きもせず、カイアスと共に時空の歪みに入っていった。見送るしか、なかった。  また、会えたのに。ここで会うなんて……思わなかった。……こんな形で。  ユールとカイアスの消えた時空の歪みに残されたオーパーツを手に取ると、オーパーツクポ! とモグが歓声を上げ、くるくる回る。でもよかったな、とも、うるさいぞ、とも言う気になれない。  仮にユールが転生しているとして、カイアスは……。 「……どうしてカイアスが……」  巫女を守る誓約者。剣の師匠。肩を並べたかった相手……。そして、勝てなかった、今回も。  まだまだ力が、足りない。圧倒的に。セラに怪我させないことだけで、精一杯で。 「……ノエル」  勝てない。わからない。……少し、冷静にならないと。そう思って歩き出そうとして、背中に質問を投げかけられて、振り向く。 「カイアスって人……一体誰? あの人の顔、前に夢で見たことがあるの」 「……知ってる顔だと思ったけど……違うってさ。知り合いじゃないらしい。……そもそもいるはずがないんだ、この世界に」 「でも、今ここにいた。そして、私の夢にも出てきた」 「セラの夢……ヴァルハラ?」 「うん、お姉ちゃんと戦ってた」 「ああ、確かにヴァルハラにいたな」  オーディンとバハムートと。まさに、人の力を超えた戦いをしていた。 「じゃあ、今の人は?」  確実な正解も、曖昧な推測も、何も出てこない。真っ白。 「……わからない、よね。じゃあ、聞き方変えるね。ノエルの知るカイアスは、何をしてたの?」 「俺の知ってるカイアスは……誓約者」 「誓約者?」 「巫女を守る守護者の頂点に立つ守護者ってこと。一番強い」 「……それじゃあ、さっき言ってた……制裁って?」 「時を変える者は、誓約者により死を与えられる……それが、掟だから」 「私たちが、時を変えているってこと? ……この前の話じゃ、他にも時を歪めてるやつがいるって……」 「誓約者にとっては、どっちも同じなのかもしれないし」 「そう……なのかな。  巫女を守る、誓約者……か。いつもユールの隣にいて、ユールを守る?」 「……ああ」  そう。あの時も今も、ユールの隣にいるのは、ヤーニでも俺でもなく、あいつ。みんないなくなって、だけど、最期までユールが信頼してたのは。 「……そしたら、誓約者であるカイアスも巫女ユールと共に転生してるのかな? 一人として同じユールはいない、って言ってたよね。だったら、カイアスも同じ? この時代にいるのも、ノエルの時代にいたのも、ヴァルハラにいたのも……全部、違う人? そしたら、納得できる気もする」 「……そんなこと、聞いたことないけど」 「ごめんノエル、色々聞いて。でも、わかんないで終わるんじゃなくて、ちゃんと考えたかったから……」 「いいよ。ありがとセラ」  でもそんな風に、考えたこともなかった。カイアスが、ユールと一緒に転生? だとしたら、カイアスも俺を知らなくても納得はできるけど。  ……だけど。  さっき目にした、ユールに跪くカイアス。その仕草は、ぼんやりとしてるけど記憶がある。  確か、珍しく天気がよかった日。ストリゴイに襲われて。ヤーニと俺じゃ、太刀打ちできなくて。ユールの手を引いて、全力で逃げたけど、逃げ切れなくて。そんな時カイアスが現れて、ストリゴイを文字通り瞬殺したんだ。 『……怪我はしていないか? ……』  圧倒的な威圧感を持ちながら、幼いユールの前でだけは、その身を折って、跪いた。低くも、優しい声。そこには、真摯さ、静寂さ、気遣いがあって。最初の出会いから最後の時まで、少しも変わることがなかった。どれだけ滅びに近づこうと、ユールの前でだけは。  ……それは、さっき見たものと、全く同じだった。  言葉もなく、野生のチョコボにギサールの野菜を食べさせてやった。 「クエ!」  元気な鳴き声。背中に乗る。セラも別のチョコボに乗る。モグも、ふわふわ飛んでついてくる。  そういえば、俺の世界を出てからまだチョコボに乗ったことなかったな。乗りたかったのに、野菜節約とか何とかで乗らせてもらえなかった。でも今は無理。敵と戦う気力なし。  風を切って走る、チョコボ。顔に当たる風が気持ちいい。俺が見てなくてもちゃんと走れよ、って言いながら、チョコボの背中に前から倒れ込む。危ないクポ、って声が聞こえた気もする。わかってる、だけどいいだろ、今くらい。腕と手で、胴体を抱え込む。触る。その背中に、顔を擦り付ける。ふわふわ。柔らかい。ふさふさ。気持ちいい。……はあ。 「……俺もチョコボになりたかったな……」 「クエ?」  チョコボが生きてる。本当はそれだけですごく嬉しいことで、喜ぶべきなのに。今の俺、素直じゃない。 「お前みたいに悩みなく生きられたらな……」 「クエ!」 「……怒ってる? そうだよな。お前も大変だよな。こんな見ず知らずの男に、悩みがないとか言われてさ」 「クエ」  ……時代は違うし、転生を繰り返す存在だったとしても、俺のことわかってくれるって、期待してた。わかってくれると思ってたんだ。なのに。 『わたしは、あなたのユールじゃない』  温度のない、ユールの言葉。そして、カイアスも。 『私は、君の知っているカイアスではないよ』  じゃあ何だってんだ。俺は、あんたたちと暮らしたいって思ったのに、あんたたちは俺を覚えてないのか。  あんな悲しい世界、戻りたいって思ってたわけじゃない。だけど仲間がいて、ユールとカイアスがいて……そんな生活。  今俺は、この世界が救われて、セラやライトニング、みんなが幸せに暮らせる世界になることを目指して頑張ってるけど。だけどもしも、儚い願いだとしても、未来の奴らも消えずに残ってて。そしたら新しい世界で、みんな幸せに暮らすこともできるかもって。……心のどこかでは、願っていたのに。  でも、ユールもカイアスも、俺を覚えてない。もう俺の帰るところなんて本当に、ないのかもしれない。  心が、投げ出される。  チョコボは、難なくゲートの前まで連れて行ってくれた。そしてさっきのオーパーツを使えば、また次の時代に行ける。  だけど……こんなに次の時代に行く気力が湧かないこと、初めてだ。セラがゲートを起動するのを見ていても、足が全然進まない。 「……同じ顔で、同じ声で」  ユールの肩をつかんで、顔を覗き込んだ時の表情。会えたことに、何の感情もなかった……。 「なのに、俺のこと、全然知らない……」 「……ユールさん?」  うん、と声を出す元気も出ない。頭だけで頷く。それに、カイアスの奴も同じ。  だけど、何も変わらない、セラの表情。何も言わないから、逆に俺から聞いてしまった。 「……聞かないのか?」  さっき誓約者のこと、制裁のこと、たくさん聞いてくれたみたいに。何があったの? って。いや、何でもいいんだけどさ。  でも、セラの口から出たのは、……俺の予想の、どれからも外れていた。 「あ、何? ちょっと、ぼうっとしてた……」  いや、ちょっと待て……と引き止める間もなく、セラは何事もなかったかのようにゲートに消えていった。  え、セラ先生?   そしてモグも、クポ! とか言いながらゲートに消えていった。でもモグの顔は、"ざまあみろクポ"と言ってるようにしか、見えなかった……どうしても、俺の目からは。  モグ! 絶対お前は聞いてただろ! 無視するな!   と心の中で叫んだところで、一人と一匹が帰ってくるわけでもない。全身から、ため息が漏れる。 「……聞かないんじゃなくて、聞いてないのか……」  その場に倒れそうになるのをかろうじて踏みとどまった姿勢のまま、ゲートに吸い込まれた。  ……俺の方こそ。聞かないのか、じゃなくて、聞いてほしかったのか? 慰めてほしかったのか?   ……期待過剰?   いやヤシャス山でだって、"何か気になってるんだね"ってセラが聞いてくれたし。今回も聞いてくれると思ったから。  ………自意識過剰?   本当に聞き逃しただけなら、聞き返してくれたはず。そうしなかったってことは、わざと?   いや、思い出せ。前そうやってセラが聞いてくれた時、俺個人の問題だとか答えたの、俺だろ? 聞くなって言ったようなもんだろ?   まさかの、仕返し? 怒ってる?   ユールは覚えてない。カイアスは勝たせてくれない。セラは聞いてない。ないないない。散々。  さすがに、落ち込む。……俺。セラにまで、冷たくされたら。  いや、しっかりしろ。とりあえず、次の時代に行く。きっと、ヤシャス山。ホープもいる、アリサもいる。  ……だけど。  こんな気持ちのままじゃいられない。こんな気持ちじゃ。  ユールとカイアスのことは、もう……どうしようもないことだとしても……、セラのことは、原因が俺にあること。  俺がちゃんと、話せてればよかったこと。それを、うまく言えてなかったから悪かったこと。  だから……謝ろう。ちゃんと、今すぐに。遅くなる前に。 「……ごめん、セラ」  時代と時代が交差する道、ヒストリアクロス。先に進むセラに追いついて、話しかける。 「何?」 「今度から、何でもちゃんと話すようにするから。怒らないでほしい」 「えっ、何に怒るの?」 「え、怒ってるんじゃないのか?」  違った? 早合点? 正解は、やっぱりほんとに聞いてなかった? プラス、自意識過剰?  「セラはいつも穏やかクポ! ノエルみたいにすぐ怒ったりしないクポ」 「モグ……元はと言えばお前が」 「や、八つ当たりクポ! 聞き返したくなる話をしないノエルが悪いクポ!」 「やっぱりお前はわかってたんだろ!」 「セラ! ノエルがいじめるクポ!」 「はいはい、またケンカはだめだからね」  セラが諌める。子供扱いされてるようで癪だけど、今謝ってるのは俺だし、とりあえずここは収まっておく。 「何だろ。ユールの話だよね。いろいろ考えてたら、聞いてたけど聞こえなかったっていうか。本当にぼうっとしてて」 「ごめん。まさか、また気分が悪くなってた?」  まずい。俺の個人的な話ばかり考えてたせいで、セラが辛かったのを見抜けなかった?  「そうじゃなくて、単純に」 「……逆に、落胆」 「セラは悪くないクポ!」 「お前は黙っとけ」 「クッポ!」  お怒りのモグ。だけど、一度セラに言われたからかそれ以上言ってこない。……軽くため息をついて、呼吸を整える。 「まあ、いいよ。どっちにしても、今度からもう少し自分のこと言うようにする。  本当は自分のことなんて話すの、苦手なんだ。まとまってないことなんて特に。歴史のことならさ、忘れないようにってみんな必死で話してたから、話せるけど。でも自分のことなんて、みんな知ってる者同士だし、言う必要もなくて。  だけど、同じものを目指して旅してるのに、隠すような態度、良くないよな。もう少し、時間をくれ。自分のことを話すことに慣れるの、時間かかるかもしれないけど、ちゃんと言うようにする。  俺はセラが一緒に旅してくれてること、本当に嬉しいと思ってるから。何て言えばいいかな。セラには隠し事はしたくない。色んなことを共有したい。もっとたくさん話したい」 「どうしたの? 改まって」 「……俺の素直な気持ち」 「ノエルって、そういうところはすんなり言えるのにね」 「……ごめん」 「大丈夫だよ、ノエル。無理しなくたって」 「だけど」 「話そうとしてくれることは、すごく嬉しい」 「だったら」 「だけどね、そういう話してもしなくても、……私、ノエルを信頼してるから。大丈夫」 「……」  言葉がそれ以上出てこなくなる。 「ノエルと旅ができて嬉しいのは、私も一緒だよ。それだけでも、たくさんのこと共有できてるって思わない? それに、言わなくたって、ノエルが真面目だったり優しかったり、裏切らないってこと、わかってる。だから、言わなきゃいけないことなんて何もないの。つらかったら無理して言うことないし、言いたくなったら言ってくれれば、それで十分だよ」 「………ありがと」  かろうじて、感謝の言葉だけを口にする。まともな声になってないかもしれないけど。 「でも、言いたくなったら、たくさん話そうね」  包まれるような、むず痒いような感覚。何だ? ……それでも。 「よかったクポね~、セラが優しくて」  なんて言われれば、モグの口をどう塞いでやるかを考えるのが先決だった。 (2)-2 それがアリサの本音なんだよな へ
一緒にいたかった人に忘れられて、辛かっただろうなと思います。そんな中の、ぼうっとしてた……ですね……セラさん……。ホープ編で、その選択肢を選んだことにしてしまっていたので書いたのですが、この時のノエルには結構なダメージだったのではと思ってしまいます。開発者のみなさんも酷い選択肢を作りますね、なんて。