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トップページ > > FF13 > いつか帰るところ

いつか帰るところ(1)-3

(1)-2 どれが正しい俺なのか?  へ ヤシャス山 AF010年  次に訪れた場所は、日蝕によって闇に覆われていた。  また、記憶を探ってみる。 『古の時、あまかけるファルシ、光を呑み込み、地に影満ちる……』  この時代よりもっと後の、AF200年のこと。……比較的近い時代のことだからか、記憶もはっきりしている。ばあちゃんがまだクリスタルの粉塵で苦しむ前、穏やかな顔で話してくれたはずだ。……だから、AF200年に起きるはずのことが、この時代で起きているのはおかしい。 「じゃあ、もしかして、これって、パラドクス?」 「ありえる話」  太陽は、あまかけるファルシに。真実は、絡み合ったパラドクスに。その姿は隠されて、見ることができない。  それでも、姿が見えなくても、確かにそこにあるんだと思うことはできる。  静かに目を閉じる。そうすると、聞こえる気がする。姿も形も見えない、聞こえても、誰の言葉なのかさえわからない。でも、取り留めもなく頭と心に流れ込んでくる、懐かしい感覚。 『私たちを、忘れないで……』 『……人の本当の死は、誰からも忘れられることなの……』  無念の気持ち……? 俺の、知ってる仲間? それとも、ここに住んでた時詠みの一族? 混ざってる?  『忘れないで。覚えていてくれたら、きっと……』    そう聞こえたと感じたのは、きっとここが、自分に"近い"場所だったからだ。 「ここって、古代都市だよね?」  崩れた柱の横を通りながら、セラが問う。質問の先は、セラと元々の知り合いだというホープ。俺の名前も、そして俺たちがゲートを使ってこの場所に現れるということも知っていた。……AF5年のビルジ遺跡で会ったアリサから聞いたって話だ。 「パドラの都、といわれています。"時詠みの一族"と呼ばれる人々の王国だったそうです」  耳を疑った。……聞き慣れた、言葉。 「時詠みの一族? ここに昔、時詠みの仲間がいっぱい住んでたってこと?」 「仲間という言い方が正しいかはわかりませんが、"巫女”を頂点とする社会だったのは、確かです」  ……今まで考えていなかったけど、過去に遡るってことは、一族の仲間に会える可能性が、あるんだ。  ここには、もう誰もいなくなったけど、俺の求めていた仲間がいたのだという。そしてきっと、"ユール"も。 「視えているか、ここにいること……」  ユールは過去のどこかにいて、ユールにとって未来にいる俺が視えているのかもしれない。多くの仲間と一緒に。さっきの声も……みんなの声? そうしたら、俺が未来を変えようとしてここで頑張っていることも、見守っていてくれる……?  「この国……パドラは、巫女がリーダーだったんだよね?」 「はい。巫女は時を詠み、未来を視て、国の全てを動かした」 「"ユール"だ」 「……あなたは、時を超える人だ。知っていてもおかしくないですね。時詠みの巫女は代々、"ユール"という名を継承して、人々を導いたそうです」 「何人ものユールがいるってことなんだね」  ……何人ものユール。  過去のユールに会えば、……俺のこと、知ってる?   ここにはいなかったけど、今後も旅を続ければ時詠みの一族に会える可能性もあるってことだろ?   みんな、遠い子孫の俺のことなんて知らないだろう。それでも、時詠みの巫女なら、俺のことわかってくれるのかもしれない。 「巫女ユールは、この都市の滅亡を予言したそうです。ある者は、滅びの運命を変えようとした。またある者は、この街を捨てようと主張した。絶望して、自暴自棄になった人たちもいた。考え方の違いが、対立を生んで、大きな争いが起きた」 「未来を知る力が、人を惑わして、不幸にすることもあるんです」 「まったくな。だから、一族は消えた。他人を避けて、荒野をさまようようになった」  だけどもう、最後の時は、争いすら起きなかった。未来を視たところで……  ……あれ。  また……か? わからない。俺の時代で時詠みの巫女が視た未来は……どんなものだった?  「時を超える人だから、……にしてもよく知ってますね。僕らですら、そこまでたどり着くのに時間がかかったというのに」  ……でも、これだけ言っていたのに自信がなくなってくる。時詠みの一族の歴史。巫女は未来を視る。対立が生まれる。争いが起きる。それはいい。でも、俺の時代は? 争いは起きなかった? どんな未来が視られてた? 予言の書は? ……見た記憶がない。  そんなことを考えていたところで、二人が、予言の書のことを口にした。 「僕が研究しているのは、"予言の書"」  思わず、声を上げる。  そんなものまで出てきたら、絶対に間違いない。時詠みの一族は、ユールは、ここにいた。そして……きっと俺に、道を指し示してくれるはずだ。  粗い、映像だけど。  予言の書の前半は、見たこともないけど……"ラグナロクの日"の伝説を彷彿とさせた。  ホープが、問題はここからだと言った後半には、逆に俺が見たことのある光景、ヴァルハラで戦うライトニングの姿が映し出されていた。 「映っていたのは、お姉ちゃん?」 「だと思いますが、断定するには、映像を細かく分析しないと」 「でも、壊れてる」 「違うんです。データにも装置にも異常はなし。なのに再生すると、こうなってしまう。ひょっとしたら、壊れているのは書ではなく、僕たちがいる、この空間の方かもしれない」  この時空も、パラドクスで、起きるはずのない日蝕が起きているくらいだからな……。それに引きずられて、予言の書に映った未来が乱れていたとしても、不思議じゃない。  パラドクスで、予言の書が乱れる、か。  ……何か思い出さないか?   同じなのかもしれない。パラドクスによって、俺の記憶がおかしくなるのと。  予言の書も俺の記憶も、起こりうる未来に合わせて、変わる……なんてことが……?   ビルジ遺跡で言っていたように、誰かが、歴史を歪めているから起きているのかもしれない。  そうしたら、覚えていたはずのことをまた忘れてしまうのかもしれない。  忘れちゃいけない時詠みの仲間のことも。……それは、駄目だ。 「オーパーツ?」  ホープの手に浮かぶ、オーパーツ。予言の書だけじゃなくて、オーパーツまでも手にしてるなんて、純粋に驚く。 「やはり、これが鍵になるんですね。僕らも解析してみたものの、どう使うのか」 「……俺たちなら、それで時を超えられる」  時を超えて、パラドクスを解消して。ちゃんと確認しなきゃいけない。歴史を歪めている奴の正体を。 「では、お渡ししておきます。僕らには、まだ使い切れないものですから……」  そう、ホープは言った。……でも、ホープの手中のオーパーツはなかなか俺の手に落ちてこなかった。 「……?」  オーパーツから視線を移すと、ホープの苦々しい表情が目に入る。 「……償いのために、みんなを助けるために、この10年間頑張ってきたんです。だから、このオーパーツもお二人のために役立つんだったら、すごく嬉しいことですよね。  だけど、本当は……僕がこのオーパーツを使ってゲートを通れたらって思うんです。僕が、行きたい。なのに、これを人に渡すしかないなんて」 「そうだよね。ずっと頑張ってきたんだもんね……」  10年。俺は8歳か。ホープとアリサはこれまでずっと、パラドクスのこと、ゲートのこと……何もないところから調べてきたんだよな。 「本当は、渡したくない。できることなら、僕が時を超えて、真実を見つけて、助けに行きたいですよ……」 「ホープくん……」 「……なんでセラさんだったんでしょうか……?」 「えっ?」 「もちろんセラさんが駄目だなんて言ってないですよ。セラさんじゃなかったら、今頃サンダガぶっ飛ばしてるかもしれないわけですからね。でも、助けを求めるなら、僕だってよかったと思うんです。一緒に戦った仲なんですから。期間は短くても、信頼はあったと思ってるんです」 「……えっと」 「それとも、僕じゃ信頼不足だったってことでしょうか? やっぱり、血がつながってなきゃ赤の他人ってことなんでしょうか? ……家族だって言ってくれたのに」 「そ、そんなことないよ! その……」  セラが、答えに困ってる。……俺は、なんて言おう。えっと、話の流れからしてこれはライトニングのことだと思えばいいんだよな?  「違うホープ。セラは、言われただけなんだ。俺がライトニングに頼まれて、セラに一緒に行こうって」 「そこも、問題なんです」 「え」 「仮に百歩譲って、助けを求めるのがセラさんじゃなきゃいけなかったとしましょう。でも、それをセラさんに伝える役目は僕でもよかったんじゃないでしょうか? 僕だって元ルシなんですから、それくらいの力きっとありますよ」 「……ええと」 「それとも、僕じゃ力不足だったってことでしょうか? 確かに僕はノエルくんに比べたら非力なもんで、そこで勝負したら勝てません。でも、その分知恵や知識は身につけてきたつもりなんです。それじゃ役に立たなかったってことですか?」 「……伝えるだけなら! 誰でもできるさ。でも、ホープは、ここで大事な役目がある。だろ?」 「もちろん頭では理解してるんです。でも頭で理解しても、感情でわからない時もありますよ。人間ですから。なんで僕じゃなかったんだろう、僕だって助けに行けるのに。セラさんとノエルくんと一緒に、どこにだって馳せ参じますよ。今からでも行けないでしょうか? お願いします、きっとお役に立てますよ。セラさんは魔法で、ノエルくんは力で、僕は知識で、力を合わせて一緒に進んでいきましょう。そういうメンバー構成、ありですよね。それに、仲間は多い方がいいでしょう?   あ、それに僕知識だけじゃないですよ。ルシの頃は攻撃魔法も支援魔法も使えてライトさんにもファングさんにも重宝がってもらえましたから、あ、ライトさんは言うに及ばずですが……ファングさんは知らないですよね。グラン=パルスの生まれで、こう言うとまた怒られそうですけど女性なんですが本当に男らしくてかっこよくて……ものすごく強い人だったんです。そんな人に重宝がってもらえた僕ですから、お二人にも連れてきてよかったなって思ってもらえる日が必ず訪れると思います。  ああ、アカデミーのことであれば心配しないでください。優秀な人がたくさんいますし、あとの研究はそれこそ研究熱心で優秀なアリサが引き継いでくれますから。僕は旅をしながら、たまにゲートを使ってアカデミーに帰って、状況確認と指示出しだけすればそれで問題ないんじゃないでしょうか? ノエルくんは大事な役目があるって言ってはくれましたけど、主任なんて、別に常にそこにいる必要なんてないんです。上からはこき使われ、下からはうざがられ、そんな中間管理職ですから、たまにそこにいるくらいがちょうどいいんですよ。  確かにリグディさんからは、自分だけじゃなくて組織の力を身につけろって言われましたし、僕はその教えを大切にしてやってきているつもりです。中間管理職だなんて口にはしましたけど、だからといってこの立場に甘んじて何もしてないわけでは決してないですよ。本当はもっと上を目指すべきですし、実際そういう風に頑張ってはいるつもりです。でも、組織の力を身につけるためとはいえ組織に縛られている感もあって……やっぱりセラさんとノエルくんが時間を移動できて、直接的に助けに行ける……なんてこと知ると、うらやましくて仕方ないんですよ。  ノエルくんだって、力を持ってるだけじゃなくて、僕が10年かけても持ち得なかった知識を持っているわけですよね。その分僕だけが知ってることだってあるかもしれませんけど。さすがに人ひとりが知れる知識の量なんて限界があるとはいえ、ノエルくんは僕がやりたいのにやれないことができる……知らないことを知っている……なんて思えば、運命の女神は本当に罪作りだなと思います。  いや、神だなんて……アカデミーはファルシに頼らず科学の力でコクーンを作るというのが理念ですから、運命の女神に頼るみたいなことを僕が発言しちゃいけないのかもしれません。科学の力でなんとかしてみせる、そう答えるのが正解ですよね。それでも、たまには言いたくなるときもあります……。理念を体現する、みんなの理想を描き続けるっていうのも正直しんどいな、と思います。なかなかそんなこと、人には言えないですけどね。  前置きが長くなりましたが……ですから、結論としては、僕もゲートを通りたいです。僕も助けに行きたいです。一緒に行きたいんです。断定できないなんて言いましたけど、あの映像、間違いないありませんよね? だからですね……」 「ほら先輩、バカなことばっかり言ってないで! セラさんもノエルくんも困ってますから。落ち着いて、その辺にしてあげてください!」  アリサが、ホープと俺たちの間に入ってくる。 「すみませんねー、お二人とも。ホープ先輩ったらもうこの研究をそれこそ全力でやってきちゃってるんで、それを自分がやれなくて人に渡すなんて悔しくて嫉妬して荒ぶっちゃって、もう!」 「アリサ、大丈夫だから。僕は見ての通り、ちゃんと落ち着いてる」 「どこがですか? 落ち着いてないですから! ほら、お二人の顔見て!」  ……ホープと目が合う、一瞬の間。 「……ああ、セラさんノエルくんに何言ってたんだろう僕」  ホープが打って変わって、しょげてる。アリサよりも小さく見える。 「ごめんなさい。今のは忘れてください……」 「いいんだ、ホープ」 「……すみません」  いや、でも……なんだか、嬉しくなったんだ。どうしようもない……そんな風に決めつけることなく、何かをしようと動いている姿が。 「それだけ、大事だってことだよな、ホープにとっても。  オーパーツはちゃんと、責任持って受け取る。あんたが全力で頑張ってきた時間を預かったって思って、俺たちも頑張るから」  そう言うと、セラも言葉を続けてくれる。 「うん。そうだね、ノエル。ホープくん、私たち、ホープくんの分まで頑張るよ。私たちじゃ頼りないかもしれないけど……」 「そういうわけじゃないんです、本当に。……信じて、ますから。  僕はその姿を見れませんでしたが、ビルジ遺跡でアリサがお二人とお会いしてから、僕たちの研究だって急速に進んできたんです。そして、お二人は、ビルジ遺跡のパラドクスも解消し、そしてそのままの姿でこのAF10年に現れた。ですから……今回だって、ちゃんと時間を超えて、このパラドクスも解消してくれると信じてます。僕たちも、より真実に近づけるって信じています」 「ありがとう、ホープくん」 「アカデミーには、ホープ先輩がまだまだ必要なんですから、旅に出るとか言わないでくださいね?」 「はは、ごめんごめん、アリサ」  ……そんな会話が終わって、アリサから話しかけられた。 「うちの先輩がご迷惑をおかけしたわね。本当に研究熱心な人だから、あんな風に勢いづいちゃう時があるの。それでいて本人は冷静なつもりなんだから、自覚がないのが曲者よね」 「いや、いいんだ。ちょっと驚いたけど、それだけ真剣だってわかったから」 「でもやっぱり、時間を超えるなんて普通できないから、ホープ先輩じゃなくてもうらやましいわ。私だって過去に行くことができたらどんなにいいか、って思うもの。実際、科学の力で実現できないかって考えてみたけど、今の技術では難しかったわ」 「……そっか」  勢いの落ちた声。アリサもきっと、残念に思ってるんだな。  でもね、とさらに小さな声で、アリサが続ける。……聞かれたら、まずいこと?  「……これ、内緒よ。実は今ね、未来に行く方法を研究してるの。過去には行けなくても、未来に行くことができたらって」 「……ゲートを使えば、いいだろ? 今は使えないかもしれないけど、もしかしたら……」 「私がそんな不確定要素に頼って待ってるだけだなんて思う? 研究してるのはね、ノエルくんみたいな特別な人じゃなくても、行ける方法。強い重力場の中ではね、時間の進み方が遅くなるの。だから自分は1日眠ってただけで、周りは何百年も経ってる、そんな装置を作ることができるはずなの。すごいでしょ?」 「へえ。ほんとにできたら、別の時代で会えるな」 「うふふ。会いたいって思ってくれる?」 「え、あ、……うん」 「本当?」 「う、なんていうかえっとその、何だ。頑張ってるから! 最初会った時は、すごく不安そうにしてたけどさ。今、前向きに頑張ってる。過去に行けなくても、運命の女神に頼らなくても、自分で自分の目の前を切り開いていこうとしてる。そういう姿は……いいなと思う。元気をもらえる。俺も頑張らないとなって思う」 「うふふ、そんな風に言ってくれるのね。ありがと、ノエルくん。……ノエルくんが言ったように、私、結構一度死んだ気で頑張ってるから。これは嘘じゃないわ」 「そっか。……よかった」 「ふふ、それにしても別の時代で会えるなんて、ロマンチックね。じゃあ、未来で会ったらデートする?」 「デート? デートって言うと……」 「知らない? 男と女が二人きりで行動することよ」 「へえ」 「へえ、じゃないわよ」 「俺とセラが今一緒に行動してるみたいなものかと」 「ちょっと違うわ。まず一匹余計でしょ? それにもうちょっと距離感近いの。さっき私がホープ先輩にやったかもしれないけど、こうやって」  といって、俺の腕に、自分の腕を絡めた。距離、近い。 「こうやって、歩いたりするの。うん、やっぱりノエルくんって、いい腕してるわよね。ブーメラン投げてる腕とは違うわ。……どう? こうして歩くの」 「ええと、なんていうかうん、いや、歩きづらい、だろ? ……慣れない」 「ふふ、ほんとかわいいわね」そう言うと、腕をほどいて、首を傾げて笑ってみせた。「これは嘘よ、う・そ」 「……え、どこまで? もしかして嘘教えられた?」 「うふふ、ほんと、ノエルくんって素直ね〜」  ……そんな風にからかわれたとしてもさ。でも、自分で言っていて、確かだと思う。……アリサも、頑張ってるよな。  冷静だと思っていたホープの思いがけない面も、見た。……うん、ホープだって、それだけ全力で取り組んでるってことだ。……そうじゃなきゃ、あんな風になんて言えないよな。時詠みの一族でもないのに、パドラの都のことだってよく知っていた。それだけ、本当に力を尽くしてきたってことなんだろう。だとしたら、その思いをちゃんと受け取らないといけないんだ、って思った。  ……時詠みの一族、パドラの都……か。  遺跡であったとしても、自分の祖先が生活していた跡だと思うと、妙にこの場所と自分が一体化していくような……吸い込まれるような感覚さえある。もう一度目を閉じると、やっぱりまた聞こえてくる。気のせいかもしれないけど……気のせいでは片付けられない、すごく近くて、温かくて、泣きたくなるような感覚。 『……忘れないで。……覚えていてくれたら、私たち、きっとまた会える』  誰なのか、やっぱりわからない。……だけど、安心してほしい、って思う。俺は過去に来て、未来を変えるために頑張ってるから。いつ消えるかどうかもわからないけど、俺がここで存在してる限りは、できる限りのことをする。絶対に諦めないから。 『……よかった……』  顔も声もわからないけど、安堵してくれたように思った。  改めて考えると、不思議。俺は自分が生きてきた分しか知らないけど、言い伝えの通り、時詠みの一族は本当にずっと昔から生きてきたんだな。そして、ユールは時詠みの巫女として、未来を詠んできた。……ユールとしての記憶が全部つながっていてくれれば、俺のこともわかるかもしれない。  そういえばユールには、前の時代のことを覚えてるかなんて、聞いたことなかったな……。 「ここかな、ホープくんの言ってたゲート」 「……多分……」  わからない。転生を繰り返しても、ユールはみんな、同じなのか? そうじゃなくても、例えば生まれ変わっても記憶はつながってる? そうしたら、俺のことも覚えてる? 覚えていてくれたら。  そんなことを考えながら待っていたけど、ゲートが一向に光らない。見やれば、セラが俺のことをじっと見つめてた。……気付くまで、見てた? 俺、どれくらい気付いてなかった?  「——何?」 「何か気になってるんだね」 「……正解」  セラが、気にかけてくれる。……でも、これを何ていいんだ? 説明しづらい。ユールがいる、そのユールは俺のユール? ……いや、わからないだろうな。自分でも、よくわかってないのに。 「俺個人の問題」  言った瞬間、ちょっとまずった、と思った。 「……じゃあ、聞かない」  ……やっぱり、よくなかった。焦る。 「ごめん、隠すつもりはない」 「無理しなくてもいいよ」 「セラ、ごめん、そうじゃない。自分の中でもうまく考えがまとまってなくて……その……"ユール"のことが気になってたんだ」 「……パドラの巫女?」 「俺のいた時代に、同じ名前の女の子がいたから」 「アリサのことじゃないんだ」 「な、なんで!」 「さっき、仲良さそうにしてたから」 「あ、あれは違う!」 「そうなの? あんな仲良さそうにしておいて、気になってたのは違う女の子? ノエルってそういう人だったの?」 「いやいや、ちょっと待て! そういうことじゃないだろ?」 「ごめんごめん、言ってみただけ」 「おいおい、セラ先生?」 「はい、では元に戻ります。気を取り直して……  その、ノエルの時代にいた女の子も、ホープくんの言ってたように”ユール”って名前を引き継いだ、時詠みの巫女ってこと?」 「まったく……  ユールについてはだな。そう呼ばれてたから……そうなんだと思う。その女の子、ユールは、時詠みの巫女で……」  そこまで言って、はた、と止まる。  ……あれ?   そういえば俺の時代のユールは、未来を……視ていた?   ホープとアリサが言ったような、考え方の違いによる争いは起きていなかったかもしれない。だけど……  ユールから、未来を視たという話を聞いた記憶がない。あの予言の書が記録されたの、見たことあったか? 未来を視てる姿、見たことあったか?  『……巫女はもう時を詠まない……』 『……もう、未来を視なくてもいいんだって、カイアスが……』  思い出せていたはずの記憶も、また、ぼんやりとしてはっきりしない。  未来が視えていなかった? 視たのに、俺には言っていなかった? それとも、視て、言ったのに、俺が忘れてる? ……どれなんだ?  「時詠みの巫女って、不思議だよね。いろんな時代が視えるなんて」 「……そういや、ライトニングが言ってたな。ヴァルハラからはすべてが視えるって」 「パドラの巫女とお姉ちゃんは、同じものを視たってこと? これから何が起きるか、お姉ちゃんは知ってるの?」 「……どうだろう。同じものを見ている? ライトニングも、未来が視えるってことか? ヴァルハラは……過去? 巫女とライトニングが同じものを見ているなら、巫女の意識は、ヴァルハラにつながってる……?」  ……。  もう一度、目を閉じてみる。誰かの声が聞こえないかと期待したけど、特に何も起こらなかった。 「もー、わかんない!」  堪りかねたように、セラが声を上げる。 「お、おい。諦めるなよ。せっかく考えたのに」 「だって、わからないんだもん。誰こんなこと考えたの?」 「そんなこと言うなよ。もう少し一緒に考えよう」 「じゃあノエルはわかるの? わからないんでしょ?」 「そうは言うけど。だから、最初に言っただろ? 自分でもまとまってないんだってさ。なのに無理矢理聞いたのはセラの方だろ?」 「私は、じゃあ聞かないって言ったじゃない? 無理しなくていいよってことも言ったよ? なのに、言ってきたのはノエルでしょ?」 「………ああ、やっぱり俺も混乱してきた! むしろ最初から混乱してた! 先生、わかりません! 理解できるかもって思ってたけど、やっぱりわかりませんでした!」 「うん、生徒は正直が一番! わからないときはわからないって言わないとね。  大体、未来とか過去とか、意味わからないこと多すぎるよ。もっと生徒にわかりやすくしてくれないと、困るよね〜」 「同感。全くだな」  はあ〜、と、二人同時に深いため息をつく。少しして、顔を見合って、笑い合う。こうして馬鹿な話をしているだけでも……大切な時間、だと思う。 「ふふ、ごめんね。うん、じゃ、次行こっか。もっと情報集め、しないとね」 「……待って、セラ」 「ん?」  この前のビルジ遺跡では、ゲートを使おうとしたときにセラが苦しそうな表情をした。今回は? ……と思ってセラの様子を伺うけど、特に何の変化もなさそうだ。本当に、疲れてただけ? 気のせいだった?  「ごめん、何でもない。大丈夫。じゃあ、行こう」 「変なの」  そうして、改めてオーパーツを掲げて、次の時代へのゲートを起動した。 (2)-1 俺の帰るところなんて、ない へ
ホープがちょっと変な人ですみません(^^; アリサって、ノエルが話しかけた時だけタイムカプセル構想の話するんですよねというところから、色々妄想が膨らんでしまっております。この頃のセラは、あのギャグ系(?)選択肢の会話の印象が強くてですね……。はい。