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長い文章ですので、できるだけ目に優しい環境でお読みいただければと思います。

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トップページ > > FF13 > いつか帰るところ

いつか帰るところ(1)-1

『どうして女神エトロは、私たちを救ってくれないの……』 『もう女神でさえも、どうすることもできない世界になってしまったんだ』 『だったら、もう終わりにすればいいだろう。神話通り、人間がエトロの血から生まれたのだとすれば……我々をもうこの世界に送り出さないこともできるんじゃないか? 元々、死の女神なのだから。死ぬために生まれるなんて……これじゃ見殺しじゃないか』 『せめて、巫女が未来を教えてくれたら……』 『本当は、視えているのかもしれない。でも、守護者が……カイアスが、巫女はもう時を詠まないのだと言う』 『時を詠まないでも詠めないでも。なら、何のための巫女なんだ? 何のために我々は巫女を守っているんだ?』 『我々は、女神エトロに仕える巫女ユールを支える、時詠みの一族。エトロと巫女を侮辱することは許されない……』 『あんただって、もう苦しいだろう? あんたの奥さんだって、お腹の赤ちゃん共々死んでしまった……。もう、限界だろう。時詠みの一族ももう、終わりだ』 『……ダメだ! 女神エトロは、絶対に諦めない者に扉を開く。そう教えてくれたのは、みんなだろう? だから、諦めずに最後まで自分たちで何かしないとダメなんだ』 『ノエル。お前はまだ若いから、そう言えるんだ』 『……何だよそれ。若いからとか、そんなの理由じゃないだろ』 『どうやったら、信じられる? ありもしない未来を』 『どうやったら……って』 『ノエルにいい時代を過ごさせてやれなくて、申し訳ないと思ってる』 『そうじゃない。いい時代じゃなくたっていい。ただ、よくなるように頑張っていきたい。それだけなんだ……』 『でも、もう、今が精一杯なんだ。今を生きることだけで。この先の未来なんて考えられない。これ以上、どんな未来があるっていうんだ。どこで何をすればいい?   みんな頑張ってきたんだ。色んな土地を彷徨ってきたんだ。もう、十分探したんだ』 『そんなのって、ない! それでも……まだ探せてないところがあるかもしれないだろ……まだ違う未来があるかもしれないだろ……』  その言葉は、届かない。 『ユール。探せば、まだ仲間はきっと残ってる。だから、みんなで探しに行こう』 『気持ちは、嬉しい。……ありがとう』 『ありがとうじゃなくて! ちゃんと、行動しよう。そうすれば、何とかなる』 『……』 『みんなが行かないなら、やっぱり一人でも、仲間を探してくるよ。ばあちゃんは、生き延びる可能性が最も高い道を選べって言ってた。一人で行くなんて、生き延びる可能性が低いこと、知ってるけど』 『……行っては、駄目』 『どうして! ユールも、俺に反対するのか? 諦めるのか? こうして人が減っていくのを、受け入れられるのか?』 『カイアスが、これでいいって』 『っ、何だよそれ……』 『彼は、何でも知っている。誓約者だから』 『そんなの、わかってるけど!』 『……女神が、憎いだろう?』 『な……』 『君は、多くの者の苦しみの声を聞いただろう? 女神エトロは、彼らを見殺しにしている。女神に救いを願っても無意味だ。女神がもたらすのは、苦しみのみ』 『あんた、ユールの守護者なんだろう! だったら最後まで女神と巫女を信じて、生き残る道を探すべきじゃないのか?』 『君は、何も知らない』 『だったら、教えろよ!』 『知りたくば、早く私に勝てるだけの力をつけ、守護者になれ』 『……言われなくても……』  そして……みんなを守れなかった。  少しずつ、身近な人がいなくなっていく。明日会えると思ってた人がいなくなる。そんなことを繰り返した。  つまらない意地を張って、喧嘩別れをした友人。まだ会えるって思ってたのに、謝ることもできなかった。  ここまで長生きしたんだから、まだまだ生きててほしいって思ってた、ばあちゃん。クリスタルの粉塵で、苦しんで死んでいった。叶わぬことと思っても、もっと安らかに……みんなに見守られた最期の時を過ごさせてやりたかった。  そして、ユールも。  死にゆく世界。ただ一人、歩いていた。誰もいない。笑った顔も、悲しい顔も、もう何もかもが。  まだ見ぬ仲間を探した。誰もいなかった。  色褪せた景色。生きるものは、何もない。  カイアスみたいな圧倒的な力があれば。みんなを、ユールを救えると思ってた……。  もっと、力があれば。  ……出会わなければ。  生まれてこなければ。
ネオ・ボーダム AF003年 「お兄さん、目が覚めた?」  女性が、少し心配そうな顔で俺を見ている。……がばっと起きる。木造の、見知らぬ家。……ああ、そうだ。彼女は、昨日敵に襲われて意識を失っていたのを助けた。名前は レブロ。 ここは、ノラハウスと呼ばれてた。思い出した。  そう、 ここは俺のいた世界じゃない。AF3年のネオ・ボーダム。俺のいたAF700年より、ずっと過去の時代。ヴァルハラを通って、ここにやってきたんだ。 「大丈夫? ……うなされてたから」  確かに、胸がじりじりしてる。握った手に、脂汗の感触がした。 「少し……夢見悪くて」 「こんな場所で寝かしちゃったからかな。眠りが浅かったんだね、ごめん」 「十分。突然来たのはこっちだし」 「ま、そんなこと言わずにさ。  昨日は助けてくれてありがとね。あたしのことも、運んでくれたんだよね。重かったでしょ?」 「全然。軽かった」 「ふふ、ありがと。お礼と言っちゃなんだけど、今ご飯作ってたから、食べていきなよ。お腹空いてない?」 「……空いてる」  そう言われれば、ヴァルハラの前からずっと食べてないはずで。……ヴァルハラがそれを帳消しにしてくれたのだとしても、胃の辺りが空腹を主張してる。 「じゃ、決まり。もうちょっとでできるから、そこに座ってて」  そこに座ってて、と言われたまま、周りを眺める。涼しい風が家に入ってくる。レブロは料理してる。でも、他のみんなはどうしてるんだろう。 「セラは? 他の奴らは?」 「まだ寝てんじゃない? 昨日の魔物の騒ぎがあったし、みんな疲れてんだろうね。ま、お兄さんも早くセラと話したいかもしれないけど、のんびり待っててよ」  ゆったり構えてる、レブロ。……まだここに来て一日も経っていないけど、のどかな空気が流れていることだけはわかる。騒がない、焦らない。死と隣り合わせなんてこともない。昨日あんな多くの魔物に襲われたってのは、稀なことだったんだろう。 「レブロが、狩りに行ってきたのか?」 「狩りって?」 「食事を作るってことは、何か動物を狩ってきたのかと」  そうは見えないけど、と思いながら聞くと、レブロは笑った。 「そんなことしないよ。お肉も野菜も、裏の庭で育ててるんだよ」  そう言って、レブロは皿を持ってきてくれた。  俺の時代じゃなかなか作物が育たないから、食べると言えば狩りをするものだと思ってたけど。 この時代じゃ、そんなことしなくてもいいんだ。この静かな空気感の理由もわかる気もする。 「さっ、召し上がれ」 「あ、ありがとう……」  見ると、赤とか緑とか、色鮮やかな食材が入っていた。香りが強い気もする。何の匂い? 独特。 「……何か食べられない?」 「いや、何でも食べるけど。見た目も匂いも、今までにない食べ物だから」 「ま、食べてみなよ」  口にしてみる。知らない味。……でも。 「衝撃。これ、美味い」 「本当?」 「本当。初めての味!」  そっけなく焼いただけとか、そういうのじゃない。なんて表現すればいい? 肉も肉っぽさがなくて、甘いような辛いような、そんな味。たくさん食べられる。 「お兄さんいい反応してくれるね~。あ、あとこれ、お水」 「……水も美味しい!」 「ふふ、こっちなんてただの水なのに、大袈裟だねえ~」 「違う。何か……甘い」  何が違うんだ? そりゃ、ケリケラータの肢で毒抜きした水よりも美味しいのは決まってるだろうけど。 「急がなくていいから。ゆっくり食べなよ」  そんながっついてたかなと思いながらも。こうやっていいものを食べていると、身体がほっとしてるのがわかる。不思議と、嫌な夢を見た気分も落ち着いてくる。 「今まで、どんなもん食べてたのさ?」 「いろいろ! でも、好きなのはアダマンタイマイ」 「アダマンって……食べれるの?」 「もちろん。ちゃんと火を通せば問題ない。あの苦味が、クセになるんだ」  レブロは驚いたような、少しだけ悔しそうな顔をした。 「ふうん……お兄さんのところはそんなものも食べるんだね。あたしも随分とグラン=パルスの食材を美味しく料理できるようになったと思ってたけど、まだまだだね」 「美味しいものなら他にもあったかもしれないけど。そんなものしか残ってない時代だったから」  そう言うと、にこやかだったレブロの顔も、ふいに真顔になった。 「……ねえ。未来から来たって、本当なの?」  俺だって正直、本当なのかって思う部分もあるけど。でもこうして俺は確かに、過去にさかのぼってきた。そしてここには、俺のいた時代にはないものばかりがある。 「本当。土地も海も全部汚染されて、動物も、植物も、人間も生き残れない時代だった。もちろんこんな美味しいものなんて手に入らなかった」 「……このネオ・ボーダムも?」 「多分。俺が見た海は、黒く濁っていて、近づくのも危険って言われてた」 「……そう」  レブロは、押し黙った。 「やっぱり、信じられない?」 「……どうだろ。嘘を言ってるようには思わないけど……どう信じていいかわからない、ね。未来から来たって話も、ライトニングが生きてるって話も」  ……やっぱり、その言葉。 「セラはずっとライトニングに会いたがってた。ライトニングがいなくなってから、私たちといたってどこか心ここにあらずで……笑うことも少なくなったし、笑ったってどこか無理してて。そりゃ、ライトニングが生きてるって話が本当なら、会わせてやりたいさ。  でも、もし信じたとしたら? セラが危ない目に遭うんじゃないのかい?」 「……正直、危険がないとは言い切れない。今後どんなところに行くことになるか、俺もわからないんだ」 「ほら、やっぱり。コクーンが落ちかけた時、たくさんの人が死んだんだ。もう、危険なことなんてさせたくない。ましてや、万が一だよ? セラが死ぬことになったら……」 「そんなこと!」  思わず、立ち上がる。 「人が死んでいく。そんなの、俺の時代だけで十分。これ以上、目の前で人が死ぬのは見たくない……  絶対、そんなことさせない。昨日、見ただろ? 俺はちゃんと戦える。俺が、守る」  ……レブロも、真剣な顔で俺を見てくる。  でも、数秒経ってから、ふっと表情が和らぐ。 「……この話については、セラがちゃんと自分で考えて答えを出すって言ってるから。セラと、よく話してみなよ」 「ああ。ちゃんとセラと話す……」 「本当はもしかしたら、お兄さんが一番危ないかもしれないし?」 「えっ? そ、そんなことない!」 「だってさぁ、うちの子かわいいでしょう? 思わず手を出したくなっちゃうかもしれないじゃない」 「ない!」 「じゃあかわいくないってこと?」 「ち、違う! そうじゃないけど……」 「ふふ、ごめんごめんからかって。まあ、言ってみたくなっただけ」 「……ならいいけど」 「ねえ。セラが起きてくるまでもう少し時間があると思うし。せっかくだから、海見ていったら? 本当の海、見たことないんだろ?」 「そうだな、そうする。海はばあちゃんも見たがってたから。ご飯、ありがとう。本当に美味かった!」  そうしてノラハウスを出た途端、目に飛び込んできた光景に驚く。  うわっ……  薄い青色の空。その地平線が、橙に染められてる。  布みたいに薄い雲、毛皮みたいにもこもこした雲。いろんな形をした雲が青と橙のグラデーションに濃淡を作っていて。黄色っぽかったり、紫がかってたり、光輝いてたり、たくさんの色を見せていた。  そして雲の間から、隠れていた太陽が姿を現して……地上と空に、光の道を作っているみたいだった。コクーンも、ネオ・ボーダムの海も、全てがその色に飲まれた。  感動。こんな世界があるんだ……  でも、そんな一言で表せられない。胸が締め付けられるくらい、綺麗だと思う。  海も光を反射して、輝いていて。規則正しい波の音が、耳に届く。  橙が白に変わっていくまで、海辺で呆然とした。  やっぱり、過去に来れたんだ。  俺が生まれた世界はいつもクリスタルの粉塵に覆われていて、こんな風にはっきりと太陽の光を見たことがなかったから。  女神は、最後の最後に救ってくれて。こんな景色だって見せてくれた。 『セラを導いてくれ。私の妹だ』  ふと、ヴァルハラでのライトニングとの会話を思い出す。  だけど……射止めてみせるとは言ったものの、正直なところ自信があるわけじゃない。  自分一人だけなら、何とかなる。だけど……人のことは、わからない。  村の人たちの言葉と、さっき聞いたレブロの言葉が、脳裏をよぎる。 『どうやったら、ありもしない未来を信じられる?』 『どう信じていいかわからない、ね』  信じて、くれるだろうか?  「海、入らないの?」  振り向くと、少年が二人立っていた。近づいて来たのに気付かないなんて、俺もこの村の雰囲気に飲まれてたのかもしれない。 「……海って、入っていいのか?」 「当たり前だろ?」 「まあ昨日魔物が出たから、あんまり外うろうろするなって言われてるんだけど……兄ちゃん、昨日みんなを助けてくれた人だよね? 父ちゃんが言ってた。だから、また魔物が出たら退治してくれるよね? ってことで、問題ないでしょ!」 「……えっと」 「海、知らないの? 服脱いで入るんだよ」 「……全裸?」 「え! それはちょっとまずいかな……じゃあ、これ! 父ちゃんのだけど、貸してあげるから! 特別ね!」 「あ、ありがとう」  レブロといいこの少年といい、ネオ・ボーダムの人は基本的に気がいいんだろうな。会ったことのない俺に対しても、気負うところがない。  言われるまま、海に足をつけてみる。透明な水が、足を包む。ひんやりとする。……気持ちいい。  ばあちゃんが見たいと言ってた海。本当の海が、きっとこれなんだろうな。叶うなら、教えてやりたい。 「じゃあもうちょっと進んでみて! 頭も水につかると思うけど」 「……目にしみるぞ、これ。大丈夫なのか? やっぱり毒入ってないよな?」 「毒? そんなものないよ!」 「少しなら飲んだって平気だよ!」 「……しょっぱ! ほんとに平気なのか、これ」 「こういうものなんだよ、海って!」 「しょうがないなあ……兄ちゃん、どうせ泳げないんでしょ?」 「泳ぐ……」 「泳ぐ前に浮かないとね。海って浮くんだ。ほら、手足の力抜いて。 ちょっと練習してみなよ!」  力抜けと言われても感覚がない。ジタバタする。  その間にも少年たちはざぶざぶと泳いでいて、恨めしい気分だ。  ……俺の時代には、自分より年下の男はいなかった。だから、話していることがすごく新鮮。  だから、聞いてみたくなった。彼らが、俺の話をどんな風に考えるのか。 「なあ」 「え?」 「もし俺が、未来から来たんだ……って言ったら、信じるか?」  ……こんな少年に、何を求めてるんだ俺は。 「うーん、信じない!」 「だな」 「……即答?」落胆。「せめて、もうちょっと考えてみないか……?」 「だって、どう信じればいの? 証拠がないよ、ショーコ。ブツ」 「うちの父ちゃんも言ってたよ。言葉だけの奴は信じるなって」 「言葉だけ……」  みんな同じことを言う。俺、言葉だけ……なのか。そりゃ、まあそうか……証拠なんてないもんな。レブロも、同じ?  「人間は前、ファルシの言うことを鵜呑みにして生きてたんだ! でも、それが間違いだったってわかったんだって! だから、ちゃんと自分の頭で考えろって、ゲンブツのないものは信じるなって言ってたよ!」 「……そうか。いい父さんだな……」 「だろ。そんな冗談言ってないで、早く浮いてみなよ!」 「くっそ……」  誰かに信じてもらって、しかも行動を起こしてもらうっていうことは、本当に難しい……。  そうしている内に、ふっと、力が抜けるような感覚があって……あ、浮いた、と思った。  頭から足のつま先まで、そっと、でもしっかりと海が支えてくれるような、不思議な感覚に包まれる。そうして、波が身体を揺らすのに任せる。  静か。でも、俺の世界の静けさとは全然違う。 波の音 が間近に耳にぶつかる。それが心地いい。  波に揺られながら、ぼんやりと考える。  人に信じてもらう以前に、そもそも自分自身だって、半信半疑。本当に? って思うこともある。変えた後の世界はどうなる? 不明点ばかり。  ……だけど。 『でも、なんで俺が……』  思わず、ライトニングに聞いた。 『お前にしか、できないからだ。このヴァルハラにたどり着いたお前なら、セラを導いて、未来を変える奇跡を起こせる』  カイアスと互角に戦っていた、ライトニング。そんな人に、お前にしかできないんだと言われたら……身震いした。  未来を、変える。変えたかった。今までの俺なら、できなかった。それを、俺がやる。俺にしかできないんだ……  その言葉に、力が湧いてくる気がした。  だから、信じてもらえるかじゃない。信じてもらうんだ。  一度、死んだと思えばいい。そう、俺はあの世界で、死んだんだ。  だから、何もない。何も持たないなら、恐れる必要もない。 『君は何も知らない』  カイアスは、そう言った。だけど、だからこそできることだってあるはずだ。  目的地を描け。そのための手段なら、いくらでもある。狩りと一緒だ。標的を定めろ。それだけは、ブレるな。  だから—— 「うわっ!」  急に、大きな音と共に海の水が顔にかかった。……少年にかけられたんだ。 「せっかくのいい天気なのに……暗い!」 「そうだよ。しかもせっかく浮けるようになったっていうのに、辛気くさい顔!」 「いや、そんなことない。おかげではっきりした」 「何が?」 「ちゃんと話さないと……行かないと」 「……ふうん? なんだかよくわからないけど……行ってらっしゃい?」 「それと、次までには俺も泳げるようになるから。もう泳ぎじゃ負けない」 「え、子供相手に、大人げなくない?」 「大人げなくていい。負けたままなんて嫌だからな」 「まあその時には俺たちももっと速く泳げるようになってると思うよ?」 「それでいいさ。その方が張り合いが出る」 「まあいいけど? じゃあ、また戻ってきてね! あ、海パンはレブロさんにでも返しといてね! 嫌がるだろうけど……」 「了解!」 「……オーパーツとかゲートとか、未来から来たとか、まだ全部信じたわけじゃないよ」  ノラハウスに戻って、セラを待つ。セラは、開口一番に釘を刺してきた。厳しい。でも、状況は理解できる。俺にだって全部わかってるわけじゃない。  だけど。 「証拠が必要ってことなんだよな? 確かに、モノもないのに信じろっていうのは無理だよな。本当にオーパーツが見つかれば、自分の言葉に確信が持てるし、扉を開けて、セラの疑問の答えを確かめることもできるかもしれない。だから、オーパーツを一緒に探してくれないか?」  わからないのに探せだなんて、我ながら強引。だけど引き下がれない。どこにも帰るところなんてない。信じてくれるまで、話すしかない。 「セラせんせー!」  オーパーツを探している中で、子供たちがセラに駆け寄る。 「みんな、私たちの生徒。勉強教えてるんだよ」 「へえ〜、セラ先生か」 「みんな、無事だったんだね。心配してたよ」 「うん! 戦うまではできなくても、身の守り方はせんせーが教えてくれてたから。父ちゃん母ちゃんにも褒められたんだ」 「私も。せんせーのおかげ!」 「……よかった。そんな風に言われると、私も嬉しくなっちゃうな」 「やっぱ、ためになる! 普段は厳しくてうるさいときもあるけど」 「……こ~ら、一言余計でしょ?」  そうして、学校の宿題や家の様子なんかの話をしている。生意気な態度の子供もいるけど、それでも……その会話を眺めていたら、急に胸が熱くなった。  ……理想っていうのか、これ。  俺の中では世界といえば、黒く塗りつぶされた、苦しみに満ちた世界だけで。  だから、ライトニングの言うように未来を変えたら、そこに何が待ってるのか、想像できなかったんだ。だけど、このネオ・ボーダムにはそれがある。  輝く太陽、青い空と、同じ色の海。豊かな緑。そんな色鮮やかな世界。  この時代なら何の問題もない、そんな風に思うわけじゃない。このネオ・ボーダムの人だって、ラグナロクの日以降、それぞれに大変な思いをして過ごしている。それでも、新しい生命が誕生して。子供たちは伸び伸びと成長していく。そんな溢れんばかりの笑顔に、セラが囲まれてる。  俺が行動することで、こんな世界を作れるのなら。それが、最後の人間としてできることなのであれば。……もし、セラが信じてくれなかったとしても……。  セラの部屋の鏡の中からオーパーツが現れて、これで本当にゲートが開く、ちゃんと時間を超えることができると自分で確証が持てた時……セラが、問うた。 「……ノエルの願いは、何?」  改めて、考える。何が実現できるのか、本当のところはわからない。それでも願うことができるなら—— 「……みんなが生きてる未来」  自分で思った以上に、声が強かった。 「みんなが幸せになるのは無理かもしれない。でも、せめて、みんなが生きてられる未来が欲しい。 生きていく、それは必ずしも幸せに暮らすことじゃないかもしれない。苦しいことだって、たくさんある。それでも、死に向かうと思うのでなく、生を紡いでると思える世界。そんな世界を作れたら……。  ……そう願って、ゲートに飛び込んだ。その時はまだ夢中で、自分が願ったことの本当の意味も知らなかったけど。でも、セラやこの村の奴らの暮らしを見て、絶対叶えたい願いに変わった」  ここがネオ・ボーダムじゃなければ、こんなふうに思えなかったかもしれない。  だって、こんな世界、あるなんて思わなかった。 「ヴァルハラで会ったライトニングが、俺にチャンスをくれたんだ。だから……未来は変えられるって言葉、俺は信じる。  俺が行動することで、本当にこの景色が実現するのなら……もう二の足なんて、踏まない。今なら、そう思えるから。  ……だからさ。ライトニングに頼まれてはいるけど、もしもセラがどうしても俺を信じられないなら……その時は、俺一人でも行くよ。そのオーパーツは責任を持って俺が引き受ける」 「……」 「戦いの途中で置いてきたんだ、ライトニングも助けないといけない。本当はセラと一緒に行ければ、俺だって心強いけど。一人でもいい。それでも、この世界を変えるために動きたいって思うから」  それだけの決意が自分の中で固まったし、このことでセラが辛いって思うならその方が……と思ったからだけど、セラの顔は曇った。 「……そういうわけじゃない」  え、どういうわけじゃない? ……と聞く間もなく、セラは次の言葉を告げる。 「ゲートに行くよ」 「……え? セラ。ちょっと……」  そういう間にも、セラはゲートの方向へ足を進めていく。一緒に行こうと言ったのは俺だけど、急にセラがゲートに行くと言い出したから、少し慌てた。 「……だって、私にヴァルハラに行ってほしいんでしょ?」 「そうなんだけど。本当に、覚悟はいいのか? ゲートをくぐれば、二度と戻れないかもしれないぞ」 「もう。行こうって言ったり、本当にいいのかって言ったり。どっちなの?」  今度は、少しからかうような、ふっと柔らかい表情。 「ごめん。でもセラだって、まだ信じてないって言ってたのに、急に行くって言ったからさ。覚悟できたのかと思って」  そういうと、セラは笑うのをやめた。……穏やかな中に芯の強さを感じる、表情。 「覚悟はできてるよ。……ちゃんと自分で考えて、思ったの。やっぱり、夢や思い過ごしじゃない。お姉ちゃんは生きてるんだ、って。お姉ちゃんは生きてて一人でヴァルハラで戦っていて、ノエルに助けを求めたんだって。  ……今まで疑って、ごめんね。誰にも信じてもらえない辛さは、誰より知ってるはずなのに。ノエルが嘘言ってるなんて思ってなかった。でも、信じるだけの自分の強さが持てなくて……」  真剣なセラの言葉が、じわ、と沁み込んでくる。 「でも、信じなくて、ノエルが一人で戦いに行って、私が一人でここに残るんだとしたら? そんなの絶対、嫌だったの。  危険なこともあるかもしれない。でも、私はノエルを信じる。決めたの……だから、一緒に来て。  ノエルが行こうって言ったからじゃない。私が行きたいから。私も、戦いたいから」  ……信じるって、言ってくれた。俺のこと。  ついていく、じゃなくて、一緒に来てって言ってくれる。自分の意志で行くよ、って伝えてくれる言葉が、じん、と心に響いてくる。 「……ありがとう。必ずヴァルハラに連れていく」  セラの信頼は、絶対裏切らない。みんなが生きてる未来を……もしもみんなが幸せになるのが難しいんだとしても、少なくともセラが幸せになる未来を、絶対に実現する……そう、思った。 (1)-2 どれが正しい俺なのか?  へ
さて、恐れ多くも本編補完をノエル編までしてしまったという話なんですが……最初の回、非常に粗いですね。最初はそんなにひとつひとつのイベントを追おうと思っていなかったので、まあざっくりと必要なところだけ書いてた感があるのですが、後の回と比べたら、ぜ、ぜんぜん違う……orzひとまず、主人公っぽい感じのノエルを少しでも楽しんでいただければと幸いです。