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長い文章ですので、できるだけ目に優しい環境でお読みいただければと思います。

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トップページ > > FF13 > LRFF13発売前妄想

ユグドラシルの樹の下で

 抜け落ちた、何かのパーツ。  それが何だったかも、どこにあったのかも、わからない。 「……どうして」  駆け寄った足が、現実を間近に見て……止まる。 「無事に帰って来れたのに………なぜ」  どうして、なぜ……? そんな言葉が、頭を埋め尽くす。そんなはずじゃないのに。セラさんが、どうして?   全てうまく行く……行かせてみせる。そう信じてた。  そのために決死の思いで時代を超えて、新しいコクーンの打ち上げの準備をしてきた。  そして、歴史を歪めていたカイアス・バラッドとの戦い。  彼を倒せば、全てのパラドクスが解消され……歴史が元に戻るのだと、信じていた。  全てのシナリオに対応しうるよう、準備してきたつもりだった。  ……目の前の、結果は……?   確かにカイアス・バラッドは倒せたのに……  一緒に戦ってきたノエルくんの、空を引き裂くほどの叫びと……——  ノエルくんは崩れ落ちたセラさんを抱きかかえたまま、小さく首を振って。僕に背中を向けたままで、言う。 「未来が、変わったから……」  絞り出すようなノエルくんの声に、一瞬、耳を疑う。  ……未来が、変わったから? どうして?   "未来を変える"。……それは、セラさんノエルくんと、そして、直接的に言葉を交わしていなくともライトさんやスノウ、サッズさんとだって……みんな共通で持ってるはずだった、合い言葉。そうやって、ここまで頑張ってきたのに。僕だって、それだけを目指して、今までやってきたのに。  なんで、それが原因だなんて。どうして、そのせいで、セラさんが倒れただなんて……。 「歴史を変えれば、未来も変わる。すると時詠みは新たな未来を視る。……嫌でも、視えてしまう」  時詠みが未来を視ることは、知っていた。僕らが未来を変えれば、新しい未来を視るんだろうとも思っていた。  でも、それがどうだって言うんだ? それが、この出来事とどうつながる? パドラの調査でだって、未来を視ることが時に社会的な混乱を招いたことはわかっていても、時詠みへの影響までは明らかになってない。  大体、セラさんは、時詠みの力を持っていた? どうして? いつから?   わからない。わからないけど…… 「では……、セラさんは、時を視て……?」  起こったことを、理解しようとして。……でも、できることなら聞きたくないとも思った。  ノエルくんが短く告げる、装飾など何もない事実を。 「……命を削られた」  身体が甲板に叩き付けられ、押さえつけられた気さえした。  今までだって、デミ・ファルシに殺された歴史もあった。僕と……そして………そして、そう、アカデミーの研究員のみんなが。 『……そのまま計画を進めたら、あんたたちは機械に殺されてた』  デミ・ファルシ計画を中止したことを告げた時の、ノエルくんの言葉。あの時の身震いするような感覚、今でも思い出せる。僕が選択を誤って気付かないままでいたら、とんでもない歴史になった可能性だって、あったということ。  だけど……セラさんとノエルくんが、デミ・ファルシと戦ってくれた。そしてパラドクスを解消して、僕の命を救ってくれた。 『……ありがとう。僕らは命を救われたんですね』  ………それが……セラさんの、命を削ってた?   そして、もうゲートも閉じたから。……歴史をやり直すことはできない。セラさんのいない歴史が、確定してしまった……?   何の言葉も、出てこない。  ——僕は、正しいことをしてるんだって思ってた。  ……もちろんアカデミアでだって、このやり方に反発する人達もいた。でも、勝手に歴史を歪めて……ヴァニラさんとファングさんが救った世界を、人々の生活を壊すことが許せなくて……  セラさんとノエルくんと一緒に、サッズさんも駆けつけてくれて、ヴァニラさんとファングさんのクリスタルを助け出すのを手伝ってくれた。だから、ライトさんとスノウも戻ってきて、そこにセラさんとノエルくんが帰ってきて……みんなで一緒に、今度こそファルシもいない、歴史も歪められない、平和な世の中を守るんだって思ってたのに。  もし誤りを重ねてたって、少しずつ、正しい方向に戻ってきて。最後には、正しい歴史を取り戻すんだって信じていたのに…… 「セラは……知っていた。時を変えたら、命が危ないのをわかってたのに……未来を救おうとした」  ノエルくんは、そっと、目を閉じたままのセラさんの髪と頬を撫でる。 「……そんなセラを、守りたくて——………守れたと……信じてたんだ……!」    誤った道を進んだまま、僕だけが、気付かないで。  自分の命を救ってくれた人の命を、救えないで。  そして、何百年もかけて造り上げてきた新しいコクーンが動きを止め、……混沌が、溢れ出た。  重々しい鐘の音が響いて。  強い風が、吹き付ける。  ……灰色に塗りつぶされた世界。  違う。僕が作りたかった世界は……  こんなんじゃ……ない 「……さん、……ホープさん!」  はっと我に返って、顔を上げる。通信機で呼ばれて戻ってきた飛空艇内も、騒然としていた。怒号のような、悲鳴のような声が飛び交う。 「ホープさん。状況把握に努めていますが……被害が掴めません!」 「アカデミア本部との交信も、途絶えました! 通信回線は生きてるようですが……応答がなくなりました!」  指示を求める声。みんなが、端末を操作しながらも僕の方を見る。  わかってる。でも、何も思い浮かばない。何を指示すればいいのか。少しだけでもいい、考える時間がほしい。  機内から見える外の景色は、黒い何かに取り憑かれたような、灰色の世界。何かが止まったような……。でも、何が起きてるんだ? そもそも、それだってわからないのに。  こんな混乱した状況の中、僕が……また正しい判断が、できるのか?   脳裏に浮かぶのは、倒れて目を覚ますことのないセラさんの姿と、……さっきまでの、ノエルくんの……—— 「っ、くそっ……」  例え震えても、何とか腹から声を出す。 「まずは情報収集が先決だ! 情報がないことには、何の対応もできない。  ……しかし、通信も途切れたこの環境ではそれも難しいし、情報があってもなくても飛行し続けるのも困難です。  だから一旦、本部に戻ってほしい。通信が取れなくて発着確認ができなくても、強引にでも着陸する」  そこまで言って踵を返したところで、慌てたように声をかけられる。 「ホープさん! ……どこへ?」 「僕は………サッズさんの飛空挺に乗って、自分の目で外の状況を確認してくる」 「危険すぎます! それに、こんな混乱した状況、ホープさんの指示がなければとても……」  今ここでなぜ、という疑念に満ちたたくさんの視線。  それも、理解できる。これは、最高顧問という立場にありながら現場を放り出すと捉えられかねない行動。……でも、そうじゃない! ……逃げ出すわけじゃない。そうじゃないんだ。 「……わかってる。でも、だからこそだ。ちゃんと指示するためにも、自分の目でちゃんと確認したい。ここで指をくわえて待ってるわけにもいかない! 絶対に、戻ってくる。……幸いにして、通信機は生きてる。僕の方で何かわかったら、逐一報告します」 「……しかし……」 「今の状況は、つまるところ僕がきちんとこういう可能性を認識できていなかったせいです。僕は、何もわからずにまた誤った指示を出して、これ以上混乱させたくないんです!   だから……今だって皆さんにご迷惑をかけているのは重々承知で、でも、僕は行きます。行かせてほしい」 「……ホープさん」 「——……も……」 「……え?」  注意していなかったら、たくさんの声に紛れて聞き逃していたかもしれない声。  振り向くと、セラさんのいる部屋から、ノエルくんが今にも倒れそうな足取りで、ふらふらと近づいてきていた。 「……ホープ。俺も……行く」  憔悴しきった顔、かすれて弱々しい声。本人は大丈夫だと言い張るかもしれない、でも……歩いてるのがやっとという感覚が、空気から伝わってくる。 「……駄目です。ノエルくんは、ここにいてください。あなたは……休むべきです。僕は大丈夫ですから」  ゆっくり近づいて、肩をそっと叩く。できるだけ静かな声音で、諭すように。  ……だってノエルくん、さっきまでは…… 『……そんなセラを、守りたくて……守れたと……信じてたんだ……』  全力で守りたかったものが、目の前で失われていった。  守りたかった人も、それに、守りたかった世界も。 『………俺が……女神を殺した……?』  混沌が今にも世界に溢れ出る中、震えながら、自分の両手を……虚ろな目で、見つめる姿。  ……僕はそんな後ろ姿を見つめるのみで……、何もできなかった。  そんな僕に行動を促したのは、通信機から聞こえる悲鳴のような声だった。 『ホープさん! お願いです……急いで、こちら側の飛空挺内に戻ってください!』  帰還を求める声。……そう、僕は、こんな状況になったって、アカデミアの指揮命令権を持っている。ここで、呆然と立ち尽くしているわけにもいかない。 『……ごめん、ノエルくん! 風も強い、ここにいたんじゃ危険です。一緒に来てください!』  それでも、セラさんを抱き締めたまま動かないから。ノエルくんの背後から前に回って、しゃがみ込んで……ノエルくん、と声をかけようとして、また声が出なくなった。 『……っ』  目を伏せたままの表情に……ぞくり、とした。  そこにあったのは、空虚。今まで信じていたもの、信じたかったもの、信じ合えたもの。その全てに見捨てられたような……自分の生きてきた全てを否定され尽くしたような、……絶望。  ……今の状態で、これ以上ノエルくんに何をさせられる?   もう、限界なんだ。ノエルくんの全てを知ってる訳じゃない。でも、彼は元々、"最後の生き残り"だった。自分以外の人がみんな死ぬなんていう、僕には想像もつかない世界を経験している。それでも、そんな未来を変えようと思って……何とか今まで頑張ってきたんだ。……それが、この結果。  もう、……無理だろう? 今立ってるのだって、打ち砕かれたかけらのような気力でしかないはず。絶対に無理だって、思うのに…… 「……俺の、責任……」  それでも、彼は言う。かすれて、消え入りそうな声でも。 「だから、俺も……行く」  ……胸が詰まって、本当に何も言うことができなくなった。 『新コクーン建造計画を推進した500年は、徒労』 『コクーン全体を巻き込んだ壮大な計画の失敗』 『完全な失策。奢ったアカデミー最高顧問の、重大な責任』  今まで協力し合いながら進めてきたと思っていたのに、みんなの態度も大きく変わった。たくさんの批判の声を、聞いた。  全て、その通りなんだろう。反論する余地なんて、どこにもない。結局僕は、言うだけで何もできなくて。たくさんの人を、巻き込んだだけだった。僕がタイムカプセルで眠っている間にも、顔の知らない多くの誰かの人生を、狂わせてしまっていたはずだ。  あの500年は何だったんだ、とも思う。未来を変えられると思い込んで、人を巻き込んで……僕は…… 「僕の責任……か」 『——……あなたの責任じゃないですよ……悪いのは……』  呟いて、眠れば、たまにそうやって慰めるような声が聞こえる気もした。誰なのかはわからない、それでも、どこか懐かしいような……起きた後も印象に残る……そんな声だった。  ……だけど。 『……俺の、責任。……だから、俺も……行く』  混沌の溢れた世界。そこに生きることを余儀なくされた人々の苦しみ。  世界を救おうとする中で、それを目の当たりにし続けて。  ……その度にノエルくんの表情は沈んで、『俺のせい』……と、呟いた。  僕に向けられた批判の目も、スノウについてだって…… 「……ごめん。やっぱり、一緒に行くって言っても、やめさせればよかった………」  無力感や後悔に苛まれても、僕は、堕ちることもできない。  ……どれだけのものをなくしてきたんだろう。どれだけの絶望の中で生きてきたんだろう。僕の知り得ないほどの深い絶望を知っていて、ぎりぎりまで追いつめられた彼の姿を目に浮かべれば、……いくら苦しくたって、……大したことがないとしか思えない。  でも、だからといって……純粋に未来に希望を抱いていた頃の僕とも、違う。  ”希望"を持っていれば、何だってできるって……信じてたのに。  僕は、この世界を守ることが……できなかった。セラさんのことも……そして、みんなの心を、守ることも。  ……そして。  小さくなってしまった手を伸ばした先には、聖樹ユグドラシル。……“生命の木”。……まだ、小さいけれど。  ライトさんが集めてきた輝力を捧げることで……成長させ、世界の寿命を延ばす。それが、至高神ブーニベルゼから与えられた僕の役目。唯一、今の僕にできること。  ……とはいえ、世界の崩壊は止めることができない。たかだか、延命処置でしかない。  ブーニベルゼに選ばれたと言ったって、今の僕にできることは、その程度のこと。  この樹の下で、ただライトさんの帰りを待つ。世界の命を、少しだけ延ばす。魂を解き放ち、新しい世界へ……大きな視点で見て、本当にそれに意味があるかどうかも、わからないまま。 『……できたら僕も、ライトさんを守れたら……って』  遠い遠い、過去の記憶。それが本当に、同じ自分という人間が言った言葉なのかも、不思議に思えてくるくらいに。  ——……ごめん、ライトさん。  ライトさんのことも……守れたら、って言ったけど。全然、守れてない。今までも、そして今も。  セラさんのことも……ライトさん同様に、守りたかったのに。……それも、できなかった。  あなたの目覚めまで、少しでも世界をいい状態に保とうと努力もしたけれど……それも、叶わなかった。  せめてあの時みたいに、あなたの隣で一緒に戦うことができたら……って、何度も思ったけれど。  ……今は、こんな通信機を通して、できる限り役立つ情報を伝えることしか……できない。僕のできることは、……こんなにも小さい。 「あの二人のことも、この世界のことも、全部……あなた頼みにしてしまってごめんなさい……」 『……? 何か、言ったか?』  通信機から聞こえた声に、ふっと意識を現実に戻す。 「——……いいえ、何にも」 『本当か?』 「何か情報があれば、ちゃんと言ってますから。今は、そのまま進んでもらって大丈夫ですよ」 『……それならいいが』  でも、どこか納得しきれていなさそうな声色。 「何か……問題でも?」 『……いつもと様子が違ったから……その、少し心配になった』  ……思わぬ反応に、凝り固まってた顔が、ほぐされた気がした。  あの時とは違う。ブーニベルゼに選ばれた、「解放者」という存在。そしていくら言っても、僕のことを昔みたいにホープと呼ばない。  それでも、やっぱり思うんだ。……ライトさんはライトさんだって。 「……ありがとうございます。僕のことは、いいですから。気をつけて、ちゃんと周りを見て進んでくださいね」
なぜホープだけ闇落ちしなかったのか……というお題をいただい(てしまったと解釈し)て、心の中でげろりしながら考えたものです。7月1日に書き始めたので、7月4日のJapan Expoの情報は……取り入れられてたり、取り入れられてなかったり。いや情報に追いつくのが難しいです。 『スノウに限らず、メインキャラクターは自分がしてきたことで世界を壊してしまったり、セラを救えなかったりしたことに責任を感じてます。』という文章を見直したりして、ホープも本当は半分闇かもと思った結果&先日の「世界は救えない」というインタビュー記事を考慮した結果、暗いです。ライトさんだって闇があるんだし、ホープだってきっと。 でも、自分以上に傷ついている人を見てしまうと、堕ちきれない。そんな妄想でした。  (2013/7/26追記)その後の情報で、どうやらホープさんは記憶も感情も曖昧になっているという話を聞きました。というわけで、本小説みたいなホープはLRFF13には出てこなさそうです〜。念のため……。