LRFF13後+公式後日談設定+別の連載Echoes of Youの設定を使ってます。
(※別の話を読まなくてもこの話はお読み頂けます)
みんなちゃんと出したかったのですが、とりあえずノエセラ主体のお話です。
はあー、と大きく息を吐くと、目の前の空気が白く変わって、そして濃紺にかき消えていった。
隣を歩く人は、元々白い頬や鼻を赤くして、寒そうに両手をこすり合わせた。
「――セラ、寒い?」
「ううん、大丈夫。……私こそごめんね、ノエル。寒いのに、たくさん歩かせちゃって」
「俺は、平気。ほら、イルミネーション、きれいだしさ」
そうして片手で上方を指せば、冷えた空気で澄み切った濃紺の空に、水色や薄紅色なんかのたくさんの小さな光がクリスマスツリーの並木道を描いてる。
俺の生まれた世界には、なかったもの。例えば混沌の溢れたユスナーンにあっても、虚飾としか思えなかったもの。この世界になってようやく、楽しめるようになってる。
通りにはたくさんの人がいるけど、路面店で買い物を楽しむというより、慌ただしくどこかに向かってる人が多い気がする。慌ただしいと言っても、どの人もその表情は明るいけど。
「ありがとう。……うん、空気が澄んでて、きらきらきれいだね」
セラは微笑んで、そして——ふっと小さな白い溜め息をついた。
「でも……さすがクリスマスだね。まだパーティーまで時間あるけど、もうそろそろどこかに空いてるお店ないのかな……」
「それは……そうだな」
――今日は久しぶりに、”あの世界”で出会った仲間たちが集まる日。個別には会ったりもしてるけど、全員では初めて。
数ヶ月前に、バラバラになってた仲間たちがようやく全員繋がって——それ以降、メッセンジャーを使って定期的にみんなでやり取りを続けていた。
そんな中、秋が終わるくらいだったか。ライトニング——いや、エクレールが、意外なことを呟き始めた。
『この世界のクリスマスは、家族と過ごす風習なんだ』
あまりそういうこと言うイメージなかったから、何言うんだろうなって思いながら、メッセージの続きを待ってたけど。
『だからこのクリスマス休暇は、1回くらいみんなで集まってホームパーティーをして過ごしたい。一緒に料理して食べて騒ぐんだ。住むところはバラバラだし、移動も大変かもしれないが……たまには、”家族"でそういうこともしたいんだ』
俺が何かを書く前に、みんなの反応は早かった。すっかり置いていかれるかと思った。
『どうしたのエク〜! 賛成賛成! ねっ、みんな!』
『おう、おもしろそうなこと言うじゃねえか、やろうぜ!』
『姉ちゃんが言うなら、誰も断れねえなあ。でもどこでやるよ?』
『みんなが集まりやすい場所ってことなら、こんなところはいかがですか?』
『行動早っ!』
『わたしも参加してもいいのかな……』
『そりゃそうだ。またこないだみてえに、仲良くしようぜ。なっ!』
『スノウがいい人っぽそうで気持ち悪いよ〜!』
『おいっ!』
『ってスノウお前、どこにいるんだよ。まあどこでもいいよな。どうせ住所不定だし。バイクで来ればいいんだし』
人数も多いしうまく話まとまるのか? とも思ってたけど。エクレールの願いを形にしたのは、ホープの静かながら熱意溢れるリーダーシップと、その他諸々の何かだった。「集まりやすい」ってことでホープが提示した場所には、誰からも文句は出なかったし、ホープが『後はやっておきますね。みなさんは、この時間に来てください。料理から始めましょう』ってすべてお膳立てするから、あとはそれに乗っかればいいだけ。迅速な計画と手配。完璧だった。
『すごく、楽しみにしてるね!』
ただの文字なのに、弾むような空気感。セラとは他の人より、多く会ってるけど――この前会った時よりもっともっと、元気そうで。セラの嬉しそうな笑顔が浮かんで。……思わず、笑みがこぼれた。
それで、今日になって――
集まって、再会を喜んで。で、何はともあれまずは準備だってことで、みんなでわいわいああだこうだと言いながら準備を進めていた。ホープはやることリストまで作ってきて、てきぱきと役割分担を決めて指示してた。
『おい、俺のだけ多くねえか?!』
『スノウは馬車馬のように働け。それに、言うほど多くないだろ』
『全く、世話が焼ける。私が手伝うから心配するな』
『さっすが――ぶはっ』
メッセンジャーでも、会ってでも。スノウがいじられてるのを見て、やっぱそうなんだと腑に落としながら。
『おいノエル。お前、ちゃんと文明生活でうまく生きられてんのかよ? お前もグラン=パルスの民だしよ、なかなか馴染めてねえんじゃねーかと心配してたぜ』
『ありがと。俺はまあ……平気な方。ルクセリオでも暮らしてたし』
『ノエルは順応性があるもんね。ユールは大丈夫?』
『何とかなってる。ありがとう』
色々あるけど――
少し心配はしてたけど、ユールも――不慣れながらもとりあえず、みんなの輪の中に入れてるみたいで、一旦胸を撫で下ろす。息が、漏れる。
そうやってる中、セラがふいに声を上げた。
『あっ、……』
『? どうした? セラ』
セラは眉毛を下げたまま、俺を見上げた。
『ドッジくんにクリスマスプレゼントあげようと思ってたのに。忘れちゃった……』
『……クリスマスプレゼント?』
『うん。サンタクロースの代わり……じゃないけど。ここに来る途中で買おうと思ってたんだけど、バタバタしちゃって……』
セラは肩を落として、はあ……と溜め息をついた。
『……サンタクロース』
そういえば、そういう話だったっけ。
”クリスマスの夜、いい子には、サンタクロースがプレゼントをくれるんだ――"
この世界にはそんなのあるんだ、ってくらいにしか思ってなかったけど。
『絶対あげなきゃいけないってわけじゃなかったけど……あげたかったな……』
だけど、セラ、悲しそう。さっきまで楽しそうに笑ってたのにな。絶対あげなきゃいけないわけじゃなくても、ドッジに喜んでもらいたかったんだろうな。喜んだ顔、見たかったんだろうな――
でももう、間に合わない?
どうにかしたくても、どうにもならないものもあるって――今の俺は、知ってはいるけど。これは、そんなものじゃない。何とかすれば、きっと……
ぐるっと頭を回して考えて――ひとつの考えが浮かんだ。
『今から、買いに行く?』
『えっ?』
『さっき、今日のやることリスト見てたんだけどさ。外に出る用事、まだ残ってたはず』
そう、テーブルの真ん中。ホープの作ったリストを確認して――
うん。やっぱりそう。
『あのさ、ホープ。クリスマスケーキ、そろそろ取りに行かなきゃだよな。俺取ってくる』
『あ、ありがとう。エストハイムの名前で予約してあるから、そう言ってくれたらわかると思う。6時までに受け取ればいいから余裕はあるけど、念のため、地図はこれ。えーっとあと……人数も多いし、2ホールあるんだけど』
『そりゃ、多いな。でも、好都合。セラも連れてっていい?』
そうやって、大通りのケーキ店に行ってケーキを受け取るって役目を二人で果たすついでに、おもちゃを売ってる店も探してるわけだけど――
「でも、こんなに閉まってるなんてね……」
「同感。すぐ見つかるかと思ってた」
17時前でも、容赦なく閉まってる。おもちゃ屋だけじゃなくて、大通りの店は全体的に。
「お店の人も、家族と過ごしたいんだもんね。早く閉めちゃうよね……」
きらめくイルミネーションの光とは対照的に、通りがかる店のショーケースの向こうは暗がりが多い。レストランやカフェなんかはまだ開いてるけど、服屋とかおもちゃ屋なんてのは、特に。食材や飲み物は、ホープの指示のもと、早い時間に買い込んでたから問題ないけど。
「特におもちゃなんて、もっと早く買っておけってことなのかも……」
「でもまだ大通りは終わってないし。ひとつくらい開いてる店、絶対ある。絶対」
「……そうだよね。うん」
そうして歩いていると、あ、と声を上げて、セラが腕を引っ張った。
「どうした?」
「ねえノエル、あそこは?」
「どれ? ――あ」
足を止めて、数歩戻る。普段急いでたら通り過ぎても気づかなさそうな、小さな店。でも、金属の格子シャッターが閉まった暗い店が多い中、橙色の照明が外からですら暖かく感じた。
近づく。小さなショーウインドウには、白い綿や色とりどりの灯りが散りばめられた、小さな緑のもみの木。その周りに地球儀とか、小さな電車と線路とか、子どもや動物の人形とか、そういうものが所狭しと置かれていた。
「セラ、いい嗅覚。ここ、確定じゃないか?」
「で、でも、開いてるかな? 誰か、いるかな……?」
ドアのガラス窓から奥をのぞき込む。明かりはついてるけど、人の姿は見えなかった。
「いや、いる。大丈夫」大きなガラスのドアを試しに引くと、少し隙間が開いた。「ほら、ドアも開いてる」
「そ、そうだよね」
ドアを大きく開けると、チリン、とドアベルが鳴る。店内には、うるさくない程度にポップな音楽が流れていた。
「こんばんは」後ろからセラが進み出て、声を出す。「まだお店、開いてますか?」
奥の小さなレジ付近の物陰から、恰幅のいい白髪のじいさんがひょっこりと顔を出す。
「こんばんは。開いてますよ」
セラは、ほっと安堵のため息。
「よかった……」
「クリスマスのプレゼント、ですか?」
「そうなんです。でも、もう直前ですし、さすがに閉まってるお店が多くて」
「ああ、そうですよね。でもこの店は何とか、毎年ぎりぎりまで開けてますよ。意外と駆け込んでくる人も多いんです」
じいさんは、片付け物をしていたらしい手を止めて、シワの多い笑顔でこっちに歩み寄ってくる。
「あ、そうなんですね」
「よかったな。あわてんぼうのサンタクロース、セラだけじゃないってさ」
「も、もう、ノエルってば」パシンと俺の腕を叩いて、キッとして――と本人は思ってるかもしれない表情で睨んでくる。
「――でも、おじさんは大丈夫なんですか? この時間までお店開けてて」
「大丈夫ですよ。でも、そろそろ私も家族での食事があるので、店じまいするところでした」
「あ、そうなんですね! じゃあ早く買わなきゃ!」
セラがぱたぱたと陳列棚を眺め始めると、じいさんは「大丈夫ですよ、ゆっくりしてください」と笑って声をかけた。
狭い店だけど、陳列棚にはいろんなおもちゃが並んでて。俺自身が手にとって遊んでみたいものも、たくさんあるけど。
「でも、どういうの買うか、決めてあるのか?」
「えっと……まだ」
「今から……か」
「……だって」
「いやいや。プレゼントは難しいですよね。みなさんよく悩まれてますよ」
じいさんはセラをフォローする。
「そうなんです。どんなのだったら喜んでくれるかなって考えたら、なかなか決まらなくて……」
「そうですねえ……どんなお子さんなんですか?」
じいさんは白いひげを撫でながら、問いかける。
セラは慌てたように目を大きく見開いて、じいさんを振り返った。
「そ、その、友人のお子さんで。男の子なんですけど」
「ご友人のでしたか。失礼しました。つい、てっきり」
じいさんは白いひげを動かして優しく微笑んだ。
てっきりって? ご友人のじゃなきゃ、何なんだ。
「そ、そうなんです。――あっ、えっとでも、そういえばこの前一回聞いたんです。どんなものが好きなのって」
「へえ」
「うん。そしたらね、飛行機が好きなんだって。やっぱり、サッズさんの影響かな。――それで、飛行機の模型にしようかなって思ってたんだけど」
「……けど?」
「でも、飛行機好きなら、もう持ってるかなって思って。だから、他のがいいのかなって……」
「……う〜ん」
どうなんだろ。わからないな――
こういうことは、得意じゃないし。それにドッジのことは――”あの500年”の最初の方、サッズについていたから知ってたけど。あの頃は、好きなおもちゃなんて話題をする余裕は、誰にもあるはずがなかった。
答えられずにいると、じいさんが助け舟を出してくれた。
「飛行機好きなら、模型は何個あっても嬉しいと思いますよ」
「そ、そうでしょうか」
「ええ。じゃあ例えば――」そう言って手を伸ばして、上の棚に飾ってあったものを取り出した。「これは、最先端の新型飛行機の模型なんです。今月出たばかりなので、よっぽどじゃなきゃもう持ってるっていう心配もないんじゃないでしょうか」
「あ、いいですね」セラはじいさんから受け取って、上から下からまじまじと眺めて、俺に渡した。「ノエル、どう?」
片手には乗らない大きさ。子供向けの模型とはいえ、翼だとかたくさんの小窓は、意外と細かい。
「うん、かっこいい。最先端って言われると、余計気になる。俺が欲しいくらい」
「そ、そうかな」セラは嬉しそうに微笑んだ。「じゃあ、これにしちゃいます。おじさんも早く帰らないといけないし」
じいさんは少しすまなさそうに首をかしげた。
「ありがとうございます。でも急かしたみたいで、すみませんね。本当はゆっくりしていってほしいところですが」
「とんでもないです。こういう日なんですから、少しでも早く帰ってご家族と一緒に過ごしてください」
じいさんは奥に戻って、新品の模型の箱を出してくれる。慣れた手つきで包装紙に包みながら、ひげに埋もれそうな口を開いた。
「家族と過ごす時間は、もちろん大事ですが……私自身、子供たちのサンタクロースになろうとしてる皆さんのお手伝いの時間も、とても楽しんでるんですよ。今日もこうしてぎりぎりまで開けてたから、あなたたちに会えましたしね。そしてその先には――喜ぶ子供の顔が見える」
シワの多い優しい顔で、俺とセラに交互に目配せした。
「クリスマスは客も少ないんだから早く帰ってくればと、家族にも言われることもありますけどね。それでも私は、少しでも多くの笑顔があるよう、これからもギリギリまで店を開けているつもりですよ」
無邪気とも思えるほど、目を細めて笑った。
「サンタクロースなんて信じてないって人もいますが……それでもやはり夢と希望を与える存在ですからね。子供でも、大人でも」
「夢と、希望?」
「ええ。――あなたたちは、どうですか? サンタクロースを、信じていますか?」
店を出ると、空の端に見えていた夕焼けの名残は姿を消して、すっかり夜の色。イルミネーションの光が、より一層輝いて見える。
「ありがとう。ノエルのおかげで、プレゼント買えたよ」
セラは嬉しそうに、クリスマスらしい赤と緑の包みを改めて見せてくれた。
「よかった。ドッジも、喜んでくれるといいな」
こんなに店が閉まってるのは誤算だったけど、最後に何とかできた。
「うん。ノエルも、もう一人のサンタさんだね」
「俺? 俺は別に、ついてっただけだけど」
「でもノエルのおかげで買えたんだから、ドッジくんにとってはやっぱりサンタさんだよ」
「……そうかな。じゃあ、そういうことにしとく」
うん、とセラが笑うから、それでいい。ドッジも喜ぶなら、来た甲斐あった。
世の中、どうにもならないこともあるけど――きっと、そんなことばかりじゃないってこと。些細なことだけど、心のなかの穴がまた一つ、優しく埋められるような。
「さて……と。あとは、ケーキだな」
「そうだね。あ、地図地図」
それから場所を確認して、ケーキ屋の方に向かった。
別にどうしてというわけじゃないけど、しばらくはお互いに無言で歩いていて、――ふとセラが口を開く。
「さっきの人……本当のサンタさんみたいだった。白髪で、おひげもたくさんあって」
「だな。サンタクロースの服着たら、もう完璧」
「あ! そうだね!」セラはくすくすと笑って、そして、ぽつっと呟く。「すごく素敵で――なんだかすごく、不思議な人だったね」
「……そうだな」
つい、芸のない返し。でも、それしか浮かばなかった。
「――ノエルは」セラは、静かに聞く。「ノエルは、サンタさんにお願いしたいことはある?」
「……うーん。お願い、か。――あ、セラ、こっち」
「あ、うん」
地図を見ながら指差して、カフェのある曲がり角を曲がる。ここはクリスマスでも開いていて、天井まで届く大きな窓ガラスの向こうには赤みがかった照明と、談笑する人達が見える。……楽しそうに、このクリスマスという特別な時間を、過ごしてる。
「どうだろうな。……お願いの一つや二つ、昔の俺なら言えたのかもな。なんせ、女神エトロに願って過去に遡ったくらいだし。でも……今の俺は、特にないかな」
「そうなの?」
「あのじいさんみたいにサンタクロース信じて、お願いしたいことの一つでも言えればいいかもしれないけど……でも」
過去の自分が持っていた、様々な願いが去来する。ユールを救いたかった。未来を変えたかった。世界を救いたかった。カイアスを殺したくなかった。セラを守りたかった。混沌に溢れた世界を、元に戻したかった。罪深い自分を、消し去りたかった。過去のすべてを、やり直したかった。どれが叶った?
「——色々、あったしさ。他の何かにすがって願ったところで、叶うとは限らない。どこかで、そう思ってるのかもな」
セラから言葉が返ってこなくなったから。少し目線の下にある、淡いピンクの髪をくしゃっとまぜた。
「現実的すぎる、かな。ごめんな、そんな夢のない話、聞きたかったわけじゃないのにな」
「……ううん。色々、あったもんね……私に、全部がわかるわけじゃないけど」
「そんなことない。セラにしかわからないこと、ある」
「……うん」
でも、それで終わりじゃない。すべてを否定してるわけじゃない。
みんなが生きてる未来。ライトニングの言った、”当たり前のように生きて暮らす人々が、力を合わせて築く世界”――
それは確かに、完璧じゃない。この華やかなイルミネーションの光にすら影があることだって……俺は知ってる、けど。
願いがないわけじゃ、ないんだ。口にするのも憚られるくらい、だけど。
「だけど、ゼロってわけじゃない」
「……そうなの?」
セラは、鼻と頬の赤くなった顔を持ち上げた。
「単に、もう他力本願じゃいられないってこと。誰かに願えば叶うなんて、子供みたいに信じられないから――叶うように微力でも自分が頑張る、それしかできない。……だから」
数ヶ月前までは、そんな風には思えなかった。
新しいこの世界で生きている俺は、勉強も生活も、いろんなことがあって――それで、手一杯で。いや、手一杯だと思い込んで――世界にまだいろんな問題があることに、目を向けられなかった。
でも、今は――
「だから、強いて言えば、願いはひとつ。俺も……サンタクロースになりたい」
「……サンタクロース?」
「うん。最初の相手は、ドッジ。でも、もっとたくさんの人に。世界中のみんななんて、大それたことは言えないけど、それでも一人でもたくさんの人に。"明日"への夢や希望、与えられる人でありたいなってさ——
昔は、それはホープの役割だった。ホープがいなくなってからは——最後にはライトニングが来てくれて、新しい世界への希望を与えてくれた。でも俺はそんなこと、できるはずもなかった。夢と希望どころか、みんなに怒りや苦しみしかもたらさなかったから」
「……ノエル、そんなこと」
「でも、それでもさ。もし、本当にやり直せるなら。ささやかなことでも、いい。次の日には忘れられてたって、構わない。それでもこの世界も、生きることも、いいことなんだって思ってもらえるようなこと……していきたいって、思う」
失敗だらけの俺にどうにかできることなんてない、って。もうこれ以上分不相応に動いて、人と世界を傷つけることはしたくないって。与えられた命、与えられた生活。最低限の暮らしをして、余計なことはせずに暮らしていこうと思ってた。でも――
……だけど。セラが、来てくれたから。あの日、待っても待ってももう来ないかもって……思ったけど。それでも、会いに来てくれたから。
「うん。――すごく……素敵だね」
そんな風に縮こまって暮らすこと、ないんだって――セラが、思わせてくれたから。
「――まあ、今はまだ実力もないのに、何言ってんだってとこだけどな。セラも頑張ってるし。……それに俺はもういいやなんて思ってる間に、相変わらずホープは着実に頑張って、認められてきてるしさ。カイアスのいない今、ホープがいい目標かもな。サンタなんて言う前に、俺も置いてかれないよう、頑張って力つけていかないと。まずは目の前のこと。受験」
「……うん」
セラは、静かに頷いて。でも、少し物言いたげな顔で俺を見上げる。
「……でもね。頑張ってるノエルを見るのは、嬉しくなるけど。でも――」
「でも?」
「私の前では、いつも通りでいいんだからね」
「……いつも通り?」
「だって、頑張らなくたって――ノエルは私には最初から、夢も希望も、くれてたよ。何の怒りも苦しみも、なかったんだから」
「……セラ。ちょっとだけ、待って」
「えっ? ……あ」
歩いてたセラを、引き止めて。抱き寄せて――
「ありがと……セラ。何度言われても、安心、する。……何度も同じこと言わせてるみたいで、ごめんな」
「……ううん」
寒い分だけ、いつもよりもっと温かく感じる。少し名残惜しくて髪をそっと撫でると、セラはくすぐったそうに笑った。
「ごめん。手、冷たい?」
「ううん、全然。あったかいよ」
「そっか、よかった」
ゆっくり離れて、また歩き出して。しばらく無言でいたけど、セラがふいに笑った。
「ねえ。もし、ノエルがサンタクロースになったら――」
「ん?」
「ノエル、白髪になっちゃうんだね。髭もじゃになっちゃうんだね」
「……ひげもじゃ——た、確かに」
「それと、ぽよぽよした体型になるんだね。ノエルの見た目、すごく変わっちゃうね。せっかく筋肉質で、引き締まってるのに」
「そ、そうだな、完全に盲点だった……——ってさ、セラ。サンタクロースになるのに、別に白髪にも、髭もじゃにも、ぽよぽよにもなる必要ないだろ?」
「でもやっぱり、格好って大事だし。身も心もサンタさんになれるよ。ほらそれに、ぽよぽよって、安心感あるでしょ? ――ほら、……その」
「?」
「その……モーグリ、みたいで」
「――なるほどな。モグみたい、か」
「……うん」
俺たちは、どちらからともなく、手をつないだ。
「――なあ、そういえばセラは? 何か、お願いしたいことあるのか?」
そういえば俺ばっかりしゃべってたから、同じ質問をセラに返す。
「……うーん。ノエルに他力本願なんて言われたら、お願いなんて言えなくなりそうだよ?」
「ご、ごめん。その、俺がそう思っただけで。セラは自分の思ったこと、自由に言ってくれていいんだ」
「自由に?」
「うん。何でも」
「じゃあ、一つ目。モーグリに会いたい。私の作ったぬいぐるみじゃなくて、本当のモーグリ」
「……それは、確かに」
「でしょう? 聞かれたら、一番に答えられるよ」
「って――あの、さ。俺がそれ言わなかったからって、俺が会いたいと思ってないわけじゃないぞ」
「そんなこと、わかってるってば」
「セラはわかってても。どっかで盗み聞きしてるかもしれないモグに言った、念のため。あいつ、意外とすぐすねるからな」
「ふふ、大丈夫なのに」
どうかな、と返す。
姿は見えなくても――どっかに、いるのか。それとも、いないのか。それは俺にもセラにも、わからない。それでもまた、会える……のか。
「……それで? 二つ目は?」
「二つ目はね……。ノエルがサンタクロースなら——私は、トナカイになろうかな」
「……トナカイ?」
「うん。角つけて、ソリひいて。ノエルサンタさんが世界中の子供たちに夢と希望をふりまくのを、支えてる」
柔らかい笑顔で見上げるから。嬉しくて、くすぐったくて——
「……うん。その……ありがと」
つい頭を掻いて、そのままの勢いで頷くけど。
「……ん?」
「ん?」
頷いた直後、一瞬のうちに頭の中がくるくると動いて、そして――ついには首を振った。
「——いや。やっぱり……駄目、だ」
「……駄目、なの?」
セラは首をかしげて、寂しそうに俺を見上げる。でも、そんな顔されても困る。
「そんな泥臭い力仕事……セラにさせられるわけないだろ?」
「泥臭いって。世界中を駆け回るサンタさんを支える、大切なお仕事だよ?」
「それは……わかるけど、そうじゃない」
「じゃあ、何?」
だってさ、どう考えても、おかしい。
「セラ、よく考えてもみろ。セラこそトナカイになったら、髭もじゃどころか、毛むくじゃらになるんだぞ。このきれいなピンクの髪も、薄い肌も、なくなっちゃうんだぞ!」
「……けむくじゃら」
「そう! くすんだ茶色の毛がぼうぼうになるんだ。セラがだぞ」
この世界になって知った、トナカイ。本やテレビでも、見たけどさ。
「きれいな毛並みだよね。かわいい」
セラは呑気に、くすくすと笑う。でも。
「かわいい? 駄目だろ。俺は嫌だ」
「でも、だって。そうすれば、一緒に世界中の子供たちの元に行けるんだよ?」
……急に勢いがなくなるのを、自分でも感じた。
「そ、それはその……そうだけど」
ど、どうすればいい? 一緒に世界中の子供達の元へ――それはすごく、心に響くものだけど。
白髪ももじゃもぽよぽよも良くても、……でも、セラがトナカイ? ソリを引いて? セラが毛むくじゃらで世界中へ……いやそれは断固として駄目だ……じゃあ……
「あ。——それなら、俺がトナカイになる。名案!」
「……二人とも、トナカイ?」
「……違う」……脱力しかける。思わず、反対側の手を伸ばして額をつつく。「なあ……そんなにトナカイにこだわり、あり?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど」
「だよな。――だったら、セラがサンタクロースになればいい。俺がソリ引くから」
「でも……そうすると、ノエルがサンタさんじゃなくなっちゃうよ」
「まあ、そうだけど――なあ、セラ。もうここまで来たらさ、どっちがどっちやったって、一緒だろ? 二人で、サンタとトナカイになる。で、世界中の子供たちのところに行く。そういうこと、だろ?」
「……うん」
「そのうち、モグもいい子クポ〜! プレゼントほしいクポ〜! って、どっかでぽてぽて近づいてくるかもな」
「ふふ、かわいい。似てる」
「ま、プレゼントなんて絶対やらないけどな。お前は働け! ってな」
「ってことは、一緒にトナカイ?」
「当然、そういうこと。今までいなかった分、こき使ってやる」
「かわいそう。でも嬉しい」
「こき使って嬉しいって、セラも充分ひどいぞ?」
「ふふ、ひどくていいの」
「あ。開き直ったな?」
「うん。ひどくていいから……そうなるといいな、って。ううん、そうしたい、って思うよ」
「――……そうだな」
そんな話をしている間に、ケーキ屋に着いた。
時間内に、予約したケーキを無事に受け取った――のはいいけど。
「あっ……ねえノエル。もう閉店の時間だって!」
「ってことは……」
「もう6時?」
「だな。つまり?」
「パーティー、始まる?」
「となると、俺たちは?」
「遅刻?」
「正解。このままじゃ、どやされる。お前たち、どこをほっつき歩いてたんだって」
「もしかしてそれ……お姉ちゃん?」
「……推して知るべし、ってとこ」
「もう。ノエルがひげもじゃになるって言うから!」
「違う。セラがけむくじゃらになるって言うから!」
二人で睨み合って、そして——吹き出して、笑い合って。
「じゃあ、帰るか」
「うん!」
肩を寄せて、光溢れる通りを抜けて、みんなの待つ場所へ――
――今日は世界が少しでも穏やかに過ごせますようにって、心の中で願った。
(1/4追加)

その後ろくさんに頂いたイメージ
そこから湧いてたイメージ
深夜、みんなは騒ぎ疲れて眠ってる。しんと静まり返った部屋。
そんな中、いろんなところにぶつかりながら、「まったく、家に入るのも大変クポ!」とぽてぽてしながらやってくるモグ。手には、セラとノエルへのクリスマスプレゼント。
二人の寝顔をどこか寂しそうに、でも嬉しそうに見つめてる。
「一緒にいられなくても……でも、いつもいるクポ」といって、クリスマスプレゼントを二人の手元に置いて去っていくモグさん。
翌朝手元にあったプレゼントを見て「あれ?これ誰からのかな…?」「これもだ」と言い合う。みんなに聞いても、誰も知ってる人はいない。顔を見合わせる二人。プレゼントを開けると……——みたいなの…
……というわけで、クリスマスノエセラなお話でした!
「クリスマスプレゼントに何が欲しい?」って聞いたら、ノエルなら自分はいいから他の人に……とか言っちゃうのかなーと思ってしまいました。
特にLRFF13後でしかも公式後日談設定で昔の記憶も持ったまま、ということだと、なんとなく余計に(; ;)
少し、こないだまで書いてたお話の「Echoes of You」の要素も入れさせていただいて、こんな感じに落ち着きました。
サンタクロースとトナカイのくだりは本当に一人でドゥフフしてたのですが(←怖)
13-2時点とLR後では、変わった部分も、変わらない部分もあるかと思うのですが。ノエセラには、やはり愛のあるふざけ合いと笑い合いがあるといいですね……漫才万歳。パートナー愛万歳。はっはっは(←)
と、ノエセラ主体な話ではありますが、他のみんなも!
公式後日談ではみんながバラバラだったんですが(;;)、時々でもいいから集まってるといいなあと思ってます!!
ホープはやっぱり行動早そうです(笑)
よいクリスマスをお過ごしください!
※12/25追記
いや自分的設定ではこんな控えめではなくてもう少し親密感あったんですけど、書くうちにこうなんていうかもう少し表現が抑えられてしまいました。3周年記念も含めて!と思うと微妙に力が入ってしまって(笑)でもなんとなしの親密感が表れてたら嬉しいのですが。
※1/4追記
ろくさんに、この小説の続きのイメージで…と描いていただいたノエセラ(モグ)を上に載せさせていただいてますー!
ほんと私は絵を拝見してしんみりと涙してしまいました…!なんとなくまた色々妄想が湧いてしまいますね…!ノエセラモグ家族愛は永遠…。
おまけ文を書き切る時間がないまま正月になってしまって断念しましたが、一応それも載せておきますです。