「なんか、いい匂いがする。これ、何?」
「……あ、わかった? 香水、だよ。体に付けるものだよ」
へえ、とノエルが言う。少ししか付けなかったはずなのにすぐにわかっちゃうところは、さすがハンターの嗅覚なのかな、とも思う。
「セラが、付けてる?」
「うん……たまにはいいかなって」
グラン=パルスでは物資自体少ないし、香水自体が貴重で手に入りにくい。それでもこの暑さで汗臭いと思われるのが嫌で、この前アカデミアでこっそり買ってみた。でも、そんなことまではノエルには言わなくていいかなと思ってる。
「ふうん。かいでみても、いい?」
「う、うん。いいよ」
何にでも新鮮な興味を持つノエルだから、近づいてきて、少しだけ身を縮めて。髪、顔、肩と、くんくんと動物みたいに匂いを嗅ぐ。ノエルは普通にやってるだけだと思うけど、……何だか、変な感じ。
「えっと、その、ノエル。あんまりかがないで」
「なんで? ……花みたいな、果物みたいな……甘い。この前アカデミアで食べた、桃みたいな匂い」
「それは、そうなんだけど」
「美味しそう。どこから、匂いがしてる?」
「えっと、……んっ」
答える前に、柔らかくて、優しいキスが首筋に落ちてくる。そこに広がる、熱っぽさ。
「……ここから、匂う」
「う、うん。そう、だけど。あ、ん……」
今度は、首筋に歯が当てられる。でも、あくまでも、優しくて。
「うん、美味しい」
「……もう」
ノエルのさらさらした黒髪を撫でる。首筋から熱が伝わって、体の真ん中が、じんわりする。……あ、どうしよう。……もっと、触れてほしくなる。
「………でも」
そう言ってノエルはゆっくり体を離すと、少し残念そうな表情を見せた。
……平和な世界になってからノエルは前より感情に素直になって、嫌な時は言葉や表情で伝えてくれるようになった。もっとちゃんと言ってほしいと思ってたから、その変化はすごく嬉しいことだけど。でも、さっきから今の間でそんな表情させることなんて、なかったはずなのに。
「……俺……、残念」
ぼそっと、だけどはっきりと、呟く。
「……ノエル、……どうして?」
わかんない。素直はいいけど、人をこういう気分にさせといて、それはないよ……? ノエルは私のことたまにわからないって言うけど、それを言えば私だって同じなんだから。
だけど、沈黙。何だか泣きたい気分。もう、ノエルのバカバカ。
言ってよ、と目で訴えて。ノエルは困った表情をして、頭を掻いて。そして私の髪にそっと触れて、ようやくまた口を開く。
「……この匂いじゃない方がいい」
「えっ?」
そういえばどちらかといえば甘いもの苦手だし。甘いのは匂いも駄目とか、そういうこと? 確かにフルーティな花の香りにしちゃったけど、もうちょっとすっきりした香りの方が好みだったとか? っていうこと?
だけど、滅多に見れないノエルのわがままは、そういうことでもなかった。
「俺、いつものセラの匂いの方が……好き」
いつものって。……急に、恥ずかしさで顔が熱くなる。
「……だって。それじゃせっかく香水付けても……意味ないじゃない。ノエルに汗臭いって思われるのが嫌で、付けたのに……」
「だけど、何もない方が、いい匂い。いつもの方がいい。セラって感じがする」
力強く頷いてるけど。
「……もう、ノエルってば」
「もっと、何かすればいい?」
また、縮まる距離。背中に腕が回されて、そっと抱きしめられて。耳元で、ノエルが囁く。
「セラの匂い、かぎたい。……もっとたくさん、汗かかせればいい?」
そんな風に積極的に言えるようになったのは、すごい進歩だと思うけど。
「っ、そんなこと、言って………ぁ、……」
そういうことをする時はいつも優しくて、気遣ってくれるのはノエルなのに、って。
最初なんて、逆にこっちが困っちゃうくらい心配して。待ってって言えば、絶対に待つし。大丈夫? なんて、何回聞かれたかわからない。何度も体を重ねるようになった今だって、同じ。
無理になんて絶対にしない。今も、私が一言嫌って言ったら、絶対に止めるでしょ?
だけど、身体中に広がる熱が、そんな言葉を言えなくさせていく。言おうなんて元から、思ってないけど。だって、いつだってそういう優しさが心地よくて、逆にもっと触れてほしくなる。……それに。
……ノエルの匂い、私だって、好き。
「FF13キャラの香水ってどんななんでしょうね」というやり取りからできたノエセラ短編。当サイトでは珍しく、甘いですかね。フェチ気味でお恥ずかしいですが、平和ですね、とても。ノエルはハンターなところと思いやりのあるところの間に挟まれちゃいそうです。