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長い文章ですので、できるだけ目に優しい環境でお読みいただければと思います。

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遊ぼうぜ

「よぉっし、ノエル。お前にとっては初めての経験だからな、俺が教えてやるぜ。安心しろ、なっ! ほらもっと寄れよ」  広いリビングルーム。床にはブラウンのラグマットが敷いてある。スノウはあぐらで座ったまま、横に座るノエルに、その大きな身体を押し付けるように寄せた。ノエルは思い切り眉を寄せて、じりじりと反対側にずれようとする。 「……暑苦しい」 「遠慮すんなって。そんな離れたんじゃ、教えられないだろ?」 「いや、十分。だから、スノウ」 「いいじゃねえか。そんなに嫌がるなよ——」  じりじりと距離を取っていたが、ノエルの身体は左隣のライトニングにぶつかった。 「……あ、ごめんライトニング」  「——うるさい。邪魔だ」  げし、という音がして、ライトニングのかかと落としがノエルを挟んでスノウの頭に命中する。 「いってえ! なんでだよ!」 「ノエルが困っているだろう」 「んなことねえよな! ゲームするなら、ちゃんとやり方知らないとだろ?」  ほらと言いながら、ゲーム機のコントローラーを持った手で、目の前の大きなモニターを指差した。  とある連休。珍しくライトニング、スノウ、ホープ、セラ、ノエルの五人の休みの日が揃ったということで、「学生っぽいことしようぜ」とスノウが申し出た。 「私はお前ほど暇を持て余してなかった」「僕もルシになってからは、全然」「学生っぽいって? 勉強してるってことか?」「う〜ん。スノウの場合はそうじゃないかも?」と様々な反応があったのを、「いいんだよ! 雰囲気で! 今までやってなかったからこそ、やるんだ!」とスノウが押し切って、今に至る。 「大体、スノウのことだから変なこと教えそうだし」ライトニングの隣に座っていたホープも参戦する。 「私も同感だ」 「何だよ、みんなひでえなぁ。俺だってよ、ノエルに教えてやりてえんだ。なっ、俺でも大丈夫だよな、セラ」  スノウは、ひとり離れてキッチンから四人の様子を眺めていたセラを振り返った。 「うん、大丈夫だと思う——」 「さっすが、セラ!」 「——けど」 「うおっ? 何だよ」 「でも……ほら、ノエルに聞いてみたら?」  ちょん、と横を指差して、注意を向けるようにスノウに促す。 「やっぱり……ホープかライトニングがいい」 「俺は?!」 「……ホープかライトニングがいい」  なんてこった……と頭を抱え、床に手をつくスノウ。 「……ほらな。やはりノエルはお前には任せておけない。私が教える」  落ち込むスノウを尻目に、いつもの真面目な顔で——だけど、勝ち誇るように微笑みながら、ライトニングは宣言する。 「……教えられんのかよ?」  恨めしそうにライトニングを見上げて、低くうなる。 「できるさ、これくらい。他愛もない子供の遊びだろう」  そう言うとコントローラを手に取り、またもう一つのコントローラをノエルに手渡す。 「いいか。まずは基本姿勢からだ。これからこの画面を見てゲームをするのだが、間近で見ると目の健康に悪い。一度悪くなると、一生辛いことになる。画面とは適正な距離を保て。いいな」 「そこからか!」 「この画面の大きさなら、2m以上がちょうどいいな」  この距離なら安全だ、と言いながら、ライトニングは手を伸ばして画面からの距離を指し示す。 「特にお前は画面の動きに慣れていないのだから、目が疲れたり、重くなったり、しょぼつくと感じたらすぐに言え。ゲームを中断することもできる」 「了解、ライトニング」 「さすがはライトさんですね……」 「お姉ちゃんは何事も基本を大事にしてるからね」  ホープとセラが目を見合わせて、頷く。スノウはというと、「まあ確かに俺じゃ教えてなかったかもな……」と呟く。 「問題は……操作だな。これは2対2で戦う、対戦型バトルゲームだ。このコントローラを操作すると、画面の中のキャラ同士が戦うんだ。具体的な操作だが……○と△が攻撃で、×がジャンプのはずだ。視点はこのアナログスティックを回して、移動は十字キー」 「えっと……多いな」 「あまり細かく教えられないが、手本を見せるから見ておけ」 「了解!」 「スノウ、見本のために軽く相手をしろ」 「おう!」  ノエルは、ライトニングが動かす画面内のキャラクターを真剣に見つめる。  ライトニングのキャラクターは、ぎこちなく進んだり、ジャンプしたりして、スノウの動かすキャラクターに向かっていく。パンチやキックを繰り出すが、当たらない。 「おい、スノウ。よけるな」 「よけてないぜ」  からかうようなスノウの口ぶりに、ムキになって色々とボタンを押すライトニング。その内、ジャンプして——そのまま、場外へと落ちていった。  YOU LOSEの文字。悲しそうな音楽が鳴り響く。 「……えっと、これ……負けた、のか?」 「待て、ノエル。今のはたまたまだ」 「はははっ! 今のじゃ、何度やっても同じさ。自分から負けるんだもんなあ」 「黙れ。何だこのコントローラ、壊れてるんじゃないのか?」  そう言って、すかさず再戦を選ぶ。——が、操作が急に向上することはない。最初よりは確かにまともに動けるようになったが、それでもなかなかスノウに近づけないし、近づいても攻撃が当たらない。 「ぎゃっはっは。コントローラごと動かしても、キャラは動かないんだぜ。だーれだっけなあ、子供の遊びって言ってたの」 「あ、スノウ、横……」とセラが声をかける前に、スノウの身体はラグにのめり込むように倒れ込んだ。「……お姉ちゃんてば」 「まあまあ、ライトさん。代わりましょうか?」 「……ホープ、本当にすまない……。現実なら、もっと上手く動けるのだが……」  苦しそうに吐き出しながら、差し出されたホープの右手にコントローラを置く。 「ライトさんは実践派ですからね。でも、まずは説明書を読みましょう。ライトさんが詰まったところも、ちゃんと書いてありますから」 「……そうか」  そう言って説明書をライトニングに渡して、ホープは上手くコントローラを操作しながら、基本操作を一通り説明した。 「……とまあ、こういう風にやっていきます」 「大体わかった気がする。ホープ、うまいな」 「お前、アカデミーで勉強してたんじゃねえのかよ?」 「僕だって息抜き程度にはやったりしてましたよ。ロジックさえ掴めれば、あとはこっちのものです。ノエルくんも、コツがわかってしまえばすぐできるようになりますよ。  それと初心者の人は、勝つことばかり考えるのではなく、負けないことを考えましょう。攻撃ももちろん大事ですが、同じくらい防御が大事です。負けなければ、時間がかかってもそのうち勝てます。ですから、攻撃が来たら、回避か防御を必ずしましょう。そして反撃の機会を狙うんです」 「納得。狩りと同じだな」 「その通りです。あとは実践あるのみです」 「そうだな。やってみる」 「ライトさんもですよ」 「……そうだな。私は防御より攻撃の方が好きだが」 「ええそれはもう、ライトさんの好みにお任せしますよ」 「よーし! これで準備は整った。あとはどういう組み合わせで対戦するかだな! 五人だからなぁ」  とスノウが腕を組んだところで、セラが後ろから声をかけた。 「あ、私は入らないから大丈夫だよ」 「セラ、いいのか?」  四人が一斉に振り向く。 「うん、気にしないで。私はうまくないし、見てるだけで楽しいから」 「……本当にいいのか?……すまないな、セラ。遊びたくなったらいつでも言うんだぞ」 「ありがとう、お姉ちゃん。でも本当に気にしないでね」  申し訳なさそうにする四人に対して、明るい笑顔で答える。見てるだけで楽しいという言葉に、「ゲームを見てるだけで」ではなく「四人のやり取りを見てるだけで」というニュアンスが含まれていたことに、誰が気付いていたのだろうか。 「……わかりました……  ——ってことは……ここが最初の勝負の分かれ目か。僕とライトさんが組めば、スノウとノエルくんが一緒か。それはさすがにノエルくんがかわいそうだな。じゃあ僕とスノウ、ライトさんとノエルくん……は僕が嫌だな。となれば僕とノエルくん……ああ、でもそうなると僕はライトさんと敵対することになるのか……それは……どうなんだ? でも、この状況じゃな……」 「何をぶつぶつ言ってる、ホープ。早く決めるぞ」 「おっせーぞ、ホープ」 「(イラッ)はい、すみませんライトさん」  一番端にいたホープがふと気付くと、キッチンの方にいたはずのセラがいつの間にかソファの方まで来ていて、ライトニング、スノウ、ノエルと輪を作るようにしていた。急ぎ、膝立ちで移動する。 「じゃあ、決めるね。ここに2本の紐がありまーす。私は紐の真ん中を持つよ。そうすると端っこが4つできます!というわけで、みんなはどれか好きな端っこを持ってね。同じ紐を持ってた人同士が、同じチームになりまーす。いい?」  おのおの返事をして、紐の端を持つ。  結局組み合わせは、ライトニングとスノウ、ホープとノエルだった。 「……お前か……」 「運命だな!(ニッ)俺と組めば、必ず勝ーつ! ま、大船に乗ったつもりでいればいいさ」 「いつもながら、その根拠のない自信はどこから来るんだ?」 「……まあ、妥当な組み合わせかな」 「ホープ強そうだから、心強いな」 「ええ。少しずつ操作も教えていきますので、心配しなくてもいいですよ。必ず勝ちましょう! よろしくお願いしますね」  ——と、言ったものの。  ホープは焦っていた。  確かにノエルは善戦していた。「負けなければ勝てる」とホープが言ったことをちゃんと実践し、攻撃が来れば回避か防御ができるようになっていた。そのためすぐに負けることもなく、また少しずつ攻撃もできるようになっていた。  同じ初心者+αのライトニングも、最初にスノウに馬鹿にされたのが悔しかったからか、「やればできる」と淡々とものすごく頑張って操作を上達させていた。ぎこちなかった動きもかなりスムーズになり、勝手に場外に出ることもなく、攻撃を繰り出していた。  そして、スノウが意外に強かった。さすがに言い出しっぺだからかとも思うが。 「おらおら! 行くぜ!」  小技、走り込んで、ジャンプ、大技。荒削りだとも思うのに、攻撃が上手くはまって、ダメージを与えていく。ノエルが倒されても自分がいるから何とかなるかと思っていたが、悔しいことに途中までの勝率は五分五分。運が良ければ勝てる、という程度だった。 「なかなか勝てないな。ごめんホープ、足を引っ張って」  接戦の末、自分のエリアに YOU LOSEの文字が現れ、ノエルが謝った。そして、ホープは心を決めた。 「……協力しましょう」 「協力?」 「初歩的なテクニックかもしれませんが、勝つために一緒に戦いましょう」 「? 了解」  次のバトルが始まる音が響く。 「いいですか、僕がスノウを攻撃して、スノウが倒れたら、起き上がる時を狙って攻撃してください。攻撃が早すぎると当たり判定が出ませんし、遅すぎるとスノウが逃げちゃいますから。それを二人でやるんです」 「……こうか?」 「うおお、卑怯だろ! 動けねーじゃねーか!」  ホープが言うように、一度倒れたスノウが起き上がる時を狙った攻撃。スノウは起き上がれずに、攻撃を受けるがままになっていた。HPゲージが、確実に減っていく。 「スノウに勝つためなら、手段は選びませんよ」 「——楽しそうだな」  スノウ、ホープ、ノエルの三人のキャラがごちゃごちゃと固まって盛り上がってるところに、ライトニングのキャラが近づいてくる。 「見てねえで、早くヘルプ! ……うおぉっ! 何だよっ!」 「防御だけじゃつまらないからな。ようやく、お前を攻撃できるレベルにまで上達した。……恨むなら、味方も攻撃できるこのゲームを恨むんだな」  そう言いながら、正確なコマンド入力で必殺技を発動した。派手な効果音とともに、スノウのHPゲージが、瀕死の状態にまで削り取られる。 「おいっ! 対戦にならねえじゃねえか!」 「対戦? なってるだろう? 3対1のな」 「うおおおおっ! 俺は……俺は負けねえっ!」 「せいぜいあがけ。……殲滅する」 「——結局、お姉ちゃんとスノウチームは5勝、ホープくんとノエルチームが72勝……かあ」  つまみ用に作ったお菓子とジュースを入れていた食器を片付けつつ、セラが結果を伝える。  お菓子とジュースにしても、プレイ中は熱中しすぎてなかなか減らなかったが、最後になって奪い合うようにしてなくなっていった。 「ったくよ、殲滅っつっても俺がぼこられただけじゃねえか!」 「ふふ、いいですね。ゲームなら正々堂々とスノウを攻撃できるんですね」 「ああ。私も勝負には負けたが、すがすがしいな」 「誰のせいで負けたのか、わかってんのかよ?」  呆れと少しの疲れの混じった表情で、ライトニングをにらむスノウ。 「仕方ない。あの組み合わせになった時から、こうなると決まってたんだ。大体私が、ホープとノエル相手に本気を出せるわけがないだろう?」 「そう言うのでしたら、普段も今くらい簡単に勝たせてくれると嬉しいんですけどね」 「何か言ったか?」 「いいえ?」 「へえへえ。ったく、いいけどよ。んで? ノエル、どうだったよこういう遊びは」 「新鮮! おもしろかった!」 「おっ! いいな!」  スノウは、ノエルの髪をわしわしと掴む。そういうのは不要、と振り払うノエル。 「……でも、ずっと家にいると、身体がなまる気もするな」  首を左右に倒したり、肩をぐるぐると回して、天井に向けて伸びをする。 「ま、それはそうだな」 「私も同感だな。どうやら私たちには、コントローラを動かすより、身体を動かす方が合っているようだ。それならノエル、明日はトレセン行くか」 「トレセン?」 「身体を動かす場所だ。筋肉を効率的に鍛える器械もあるし、コントローラではなく身体を使って相手と競い合うゲームもできるぞ」 「へえ。いいな。行ってみたい」 「俺だって行くぜ!」 「あ、じゃあ……ヴァニラさんとファングさんも誘ってみましょうか。今日はどこか出かけちゃいましたけど、明日ならいいって言ってましたもんね」 「ああ。そうしよう」 「サッズさんとドッジくんはどうしてるのかな」 「みんなで何かするなら、さすがにトレセンじゃもったいない気がしますね」 「悪かったな。色気のない案で」 「いえ、悪い意味じゃないですよ! とりあえず予定が合うかもわかりませんし……連絡ついたらまた考えましょうか」  そんな会話を聞いていたら、ノエルの顔が緩む。 「……いいな。楽しそう」  今日いない人達も一緒に過ごす一日は、今日よりもずっと騒がしそうで、でも何だか楽しそうで。  そんな日を想像しながら、ノエルはぼんやりとして——そして、少しずつ身体を倒して、ライトニングとホープの間で丸まった。 「どうした?」 「……眠くなった」 「おいおい、本当子供みてえだなあ」 「うるさい。まだ俺………」 「まだ、何だよ」  言葉のスピードが緩やかになって、ついにはスノウの問いかけにも答えなくなる。 「ノエルくん、ここで寝ると風邪引きますよ」 「あ、寝ちゃった? 待ってて、毛布取ってくる」 「おいノエル。寝るなら歯を磨いてからにしろ。虫歯になるぞ」 「ライトさん。本当に、お母さんみたいですね」 「……誰が母さんだ。まったくお前は、昔から」 「おーい、ノエル。起きねえとライト母さんに怒られちまうぞ」 「しょうがないの。日が暮れても電気たくさん付けて遅くまで起きてるなんて、今までの人生でしてきてないんだから。やっぱり、まだ慣れてないの。新しい生活で気が張ってたと思うし、寝させてあげて」  毛布を持ってぱたぱたと足音を立てながら、隣の部屋からセラが戻ってくる。 「それに、みんなに囲まれて、安心しきってるんだよ」  ふわり、と毛布がかけられる。ノエルは少し身じろぎをして、やがて静かな寝息を立てていく。ライトニングはしばらくその様子を静かに見ていたが、腕組みをしてまた思案する表情に戻る。 「それもわかるが……とはいえ、どうするんだ? ここで一人で寝させておくわけにもいかないだろう」 「運びましょうか?」 「……さすがに重いんじゃないか」 「そういうことなら、任せろ! 俺がちゃんと責任持って運んでってやるから!」  スノウが片腕を曲げて、もう片方の手でその力こぶをぱんっと叩いてみせる。 「それは可哀想だ……」 「なんでだよ?!」 「しー、声が大きい、スノウ」 「可哀想なのは、俺だよな……」  ライトニングとホープの言葉に一瞬床に向けてうなだれて、その後すぐにがばっと起き上がった。 「いーい考えを思いついた。みんな聞いてくれ!」 「却下」 「聞く前から否定するなよ!」 「どうせ大した考えじゃないんだろ? スノウのことだし」 「んなことねえよ! ほら、昔友達と遊んだ時のことを思い出してさ!」 「お前にはノラの仲間がいただろうが、私はお前みたいに無邪気に遊んだ覚えはないな……」 「最初も言ったけど僕もルシになってからは、全く……」 「ったくよ、二人して……いいから聞けって!」  何か、すごくすごく大きな声が、  喚いて、  叫んで、  責める。  耳を塞いで、逃げる。  でも、耳を塞いでも何をしても、聴こえてくる叫び声。  何を言ってる?  何を責めてる?  俺が悪い?  やめてくれ。  頼むから……もう 「……やめろ!」  自分の声が聞こえて、目を開ける。瞬間、今まで聞こえていたはずの叫び声は、どこかに消えて。  代わりに耳に入ってきたのは、空気の震えと轟音。  ……ごおおお………ごおおおお…………  音はどこから発生してる?……と、聴覚に集中するまでもなく。ふっと首を横に向けると、自分を抱え込むように横向きに眠る巨体が目に入り、ノエルは反射的に突き飛ばすように力を込めた。 「……あんたかよ!」  スノウはごろんと仰向けに転がる。しかしそれも意に介さず、いびきの音は一向に衰える気配もない。  ノエルはむくりと起き上がり、その様子をしばらく眺める。そして、膝を抱えてうなだれる。はあ……と深い溜め息が漏れる。 「……これの、せいか。耳塞いでも、聴こえてくるわけだよな……」  だるさの残る中、顔を上げて、周囲を見回す。薄明かり。昨日ゲームをして遊んでいたリビングルーム。モニタは消えて、コントローラも片付いていた。  そして床に視線を落とすと、毛布が二枚広がっていることに気付く。ソファのそばの毛布からは、寄り添って眠るライトニングとセラの頭が見える。薄明かりの中でもピンク色の髪が並んでいて、きれいだとノエルは思う。もう一枚の毛布を使っているホープは、追いやられたのかテーブルの下で寝ていた。  ふと自分の身体を見ると、自分にも毛布がかけられていることにようやく気付く。 (……俺、そのまま寝たのか。——それに、歯磨かないで寝ちゃったのか。いつも言われてるのにな)  ゲームが終わった辺りから急激に眠気が来てたのは思い出せた。明日は身体を動かしに行こう、とライトニングに言われて、楽しそうだなと答えて、その後は重くなるまぶたと戦った覚えしかない。話しかけられたのは覚えていても、何を言ったのか曖昧だ。  それでも、昨日の大騒ぎが耳に残っているようで、ノエルは微笑する。初めて体験する遊び。それは今まで自分がしてきたどれとも違っていた。そもそも相手は機械だ。自分の身体は全然動かさなかったし、当たったと思っても当たらない、かわしたと思ってもかわせていないこともある。"コントローラ"の操作にも慣れないし、ホープの指示とライトニングの加勢がなければ勝てなかっただろうな、と思う。文字通り、四苦八苦だった。  それでも、操作が下手くそだとか卑怯だとか罵り合いながら、たまにセラの作ったお菓子を食べながら、五人で屈託なく笑い合いながら時間を過ごしていたことを思い出すと、自然と心が温かくなる気がした。  ……が。その大騒ぎの様子も、目の前のいびきの音にかき消されそうで、ノエルは溜め息をついて改めてスノウに向き直る。 「ていうか、これじゃみんなも悪夢見てるんじゃないのか。おいスノウ、いびきがうるさい。安眠妨害するな」  手の平でスノウの肩を掴み、その身体をゆする。が、全く反応はない。 「……おい、スノウ」  両手を床について、両足で思いっきりその巨体を横から押して、逆側に転がす。 「……んあ?」やっと、いびきが止まる。 「静かにしろ」  その声が聞こえてるのか聞こえていないのか、ごにゃごにゃと言葉にならない声が漏れて、ようやく静かな寝息に変わる。心なしかテーブルの下のホープの顔が穏やかになった気がして、ノエルは満足する。表情は見えないが、セラとライトニングも同じだろうと思いながら。 「全く……朝から何なんだ」  両手を床についたまま4人をまた見回して、ふう、と再度溜め息をつく。 (……みんな、ちゃんとベッドで寝ればよかったのにな)  今までの戦いの中で、それぞれ色んな状況で眠る必要に駆られたこともあっただろう。セラだって、普通に地面で仮眠をとったことだってある。けれど、平和になった今となっては、そんなことはしないでほしいと願う。今はあんな寝心地のいいベッドがあるのだから、と。  それでも、いくらスノウが自分の隣でいびきをかいていようと、みんなが床で寝ていようと、ノエルはそれをとがめる気にはなれない。 (………うん。俺がここで寝てたから……だよな)  そういう気遣いや優しさに気付く度に、ずっと——それこそ、時を超える前から、そして新しい生活を始めてからも気が張っていたのが、少しずつ少しずつ、落ち着いてくるような気がするのだった。  まだ寝ていて気付かないとわかっていても、4人に向けて、ありがと、と口にする。  ふと目に柔らかい眩しさが入ってきて、ノエルは目を細める。カーテンの隙間から、うっすらと太陽の光が立ち上るのが見えた。——いつも、ノエルが目を覚ます時間。  ノエルは、この時間が好きだ。暗い闇が徐々に紺色から橙色に変わって、ついには、彼の時代でははっきりと見えなかった太陽が、姿を現すところが。 (ばあちゃん。ユール、カイアス。ヤーニ、リーゴ、ナタル。……陽は、昇る)  足の裏を踏みしめて、膝を伸ばして、立ち上がる。  両手を天井に向けて伸ばして、深呼吸。身体が目覚めて、動き出す感覚。 (まずは、歯磨きからだな。で、いつもみたいに、掃除して……ゴミ出しして……朝飯の準備でもして……)  いつもの日課を、思い出す。夜は早く寝てしまう分、朝は日の出と共に早く起きて、他の人が起きるまでに色々なことをしておくのが、ノエルが自分に課している役割。 (そしたら、窓を開けて、朝日を入れて——みんなを起こそう。おはよう、って)
平和な世界のライスノホプセラノエ。何の盛り上がりもオチもないんですけどたまにはこんなのもいいかと?! 特に現パロではないつもりです〜。 FF13-2パラドクスED?な感じで書き始めましたが、LRFF13のED後がこうだったらなあと思ったりして。でも、みんなインドア派には見えないので、ゲームしてる姿って思い浮かびません。笑 ブログの方