もさもさと元気に生えた草木をがさがさとかきわけて、セラとモグの待つ場所へ。
「セラ、悪い。戻るの遅く、なっ……——」
そこで見たのは、
橙色のプリンがぶよんぶよんと動く中
大きな木の幹に背中を預けて、足を投げ出して
モグと一緒にあどけない寝顔で眠る、セラの姿だった。
ろくさんのツイートより
——え、と。
『じゃあ私は、ここで待ってるね。気をつけてね、ノエル』
『ああ、すぐ戻る』
『さっさと戻ってくるクポ〜!』
『はいはい、わかったって』
そんな会話をして一旦別行動したのが、少し前。
プリンのいる場所から、他にも移動範囲があるかどうか調べるためのことだった。
茂みの奥に何があるかわからないから、一旦俺だけが行くことにした。セラとモグは、退路の確保のためにも留守番。
色々四苦八苦したけど。結局その先は行けないってことがわかって、諦めることにした。
そして二人の待つ場所へ戻って、——今に至る。
「その……セラ?」
返答、なし。そんなこと聞く前から、明白。でも一応声をかけてみただけ。そう、念のため。
そして——返答の代わりにセラの寝息が聞こえる、というよりも。
セラの腕が抱えるまるっこい物体の出す音が、耳につく。
ていうかモグ! 一緒に寝てないで、せめてお前だけでも起きて、ちゃんとセラを守れよ! お前、お守りだろ?
「すぴ…… すぴー……」
……脱力。
まあ遅くなった俺も、悪い。想定以上に、時間かかった。
いや別に、寝てるのが悪いってわけじゃないんだ。そうじゃないけど——危機意識ってもん、ないのか? いつ魔物が襲ってくるか、わからないんだぞ。
まあ……でもな。周りにいるプリンたちに、目を向ける。
……このプリンたちもぶよぶよしてるだけで、無害そうだし。プリンがいる限り、他の魔物も来なさそうだし。
だからセラも、安心して寝てるのかもしれないけどな……
他より、安全、か?
「……」
セラをもう一度見て、ついまた目を逸らす。
ていうか——頼むから、セラ。
寝るなら寝るで最低限、足閉じろ。誰も見てないなんてこと、ないんだぞ。魔物じゃなかったとしても、ここサンレス水郷にだって、ちゃんと人がいてだな――
って、……俺だけ?
「………」
いや、その。もしかしたら信頼……してくれてるのかもしれないけど。
その、何か違うんじゃないか?
何がって聞かれたら、困るけど。
もしかしてセラの時代じゃ、そういう感覚ないのかもな……
「ああ……くそ」
目をそらしたまま、腰に巻いてた水色の布をしゅるしゅると取って、丸めてセラに投げる。
ふわっと宙に浮いて、うまく足の間に落ちてくれた。
うん、ナイスコントロール、俺。一安心。
それにしても、……どうする? 起こす、か?
「——あ」
何となくうつらうつらしてたセラが、身体の右側にぐらぐらと倒れそうになってるのが目に入って。
思わず、足が動く。
「……っと」
セラが倒れ込みそうになる前に、肩を手で押さえる。
「……ん」
セラが身じろぎしたから、声をかける。
「おい……セラ?」
……起きるかと思ったけど、やっぱりまた寝てしまった。
「……まったく——仕方ないな……」
ある意味諦めて、セラの横に腰を下ろす。
俺も、セラがもたれてるのと同じ木に背中をくっつける。
セラの頭をゆっくりと俺の肩に乗せて、完了。
「これで、よし」
これでセラも倒れ込んだりしない。ゆっくり寝れる。うん、完璧。妙な満足感。
——それにしても……セラを見て、思う。
セラも……まあ、疲れてるんだよな。
考えてみれば、当然。こんな旅、今まで一度もしたことなかったんだしな。
仲間と一緒に暮らしてたのに、ライトニングを探そうって無理に連れ出したのは、俺だしな……
そう考えたら——
寝てるのも、仕方ない。俺が疲れさせてる分、今は少しでも休んで、そしてまた元気になってくれたら、それでいい。
……そんな気持ちで、いっぱいになる。
「ごめんな、セラ。ついてきてくれて……ありがとな」
「……ノエル?」
「! セ、セラ?」
「……」
セラは少しだけ動いて、また静かに寝息を立てた。
な、なんだ。起きたんじゃないのか。び、びっくり。
別に聞かれてまずいことを呟いてたわけじゃないけど。ほっとする。
……妙な緊張から解放されて、息を大きく吐き出した。息を吸い込むと、新鮮な空気。
「……」
そういえば――
俺の生きた、時代。俺の小さい頃は、人、まだいたのに。……次々と、死んでいって。みんな、余裕がなくなっていって。
大きくなってからは——こんな風にのんびり過ごすこと、ずっとなかったっけな……
ぐる、と見渡す。改めて見る、水郷。今まで見たことのないものに、溢れてる。
ああ——日差し、きれいだな。木の葉の隙間から、すり抜けて。太陽って、こんなにきらきらするんだな。
木って、こんなに大きくてしっかりしてるんだな。俺とセラが寄りかかっても、びくともしない。
空気もさ、気持ちいいな。風が優しく、そよめいていく。さらさら、と木の葉がささやく音が聞こえる。
セラの髪も。風が吹くと、俺の首をかすめて。少し、くすぐったい。
土って、ふわふわして、あったかい。クリスタルの砂とは、全然違うんだな。
セラの顔や腕から伝わる、温度。ぬくもり。すごく、あったかいな……
……あったかい
*
「……ん」
ふと目が覚めると、すごくすっきりした気分。
身体を伸ばそうとして——でも、違和感。
? あれ? 何か、あったかい。
モーグリが? でも、それ以外に……
少しずつ目を開けて、その違和感の理由を探して——
「あれ?」
腕の中には、モーグリ。
膝には、水色の布がかかってる……? これのおかげで、足が温かかったのかな。
でもこれ、何だっけ?
それに、自分の隣に、もう一人……誰かが座って……私はその人に……
……って
「!」
ど、どうして? いつの間に?
私、モーグリの寝てるのを見守ってて——眠くなってきちゃって、一緒に寝たのだけは、覚えてる。
でも、いつの間にノエルに寄りかかって、寝てたんだろう……
肩を貸してくれたのに、気付かなかったなんて。
「ノ、ノエル? その……」
でも、ノエルからは……返事がない。動きもない。
「えと……ノエル?」
しばらく返事を待って、そっと首を浮かせて、横を見る。
「……あれ」
今は目を閉じて、静かに眠ってる。
いつも、あんまり眠らないのに。
「あ」
よく見たら、顔に傷がついて、少し血がにじんでる。……どこかで戦って傷がついて、でもちょっとだからってそのままにしてたのかな。
そうやって、人のことばっかりで、自分のことは後回しなんだから……
「ケアル」
傷口がきれいになっていくのを見て、ほっとする。
それと同時に、少しだけ——申し訳ない気持ち。
……ノエルも、疲れてるんだね。
ごめんね、旅に慣れてない私のこと、いっぱい守ってくれてるから——
その分、疲れちゃってるんだよね……きっと。
「ごめんね、ノエル」
——見ていると、私が外れたせいか、バランスを失ってノエルの身体もぐらついていた。
……ど、どうしよう? 起こす?
でも、私だけぐっすり寝させてもらってノエルを起こすのも、ひどいよね。
それに、モーグリもまだ寝てるし……
「う〜ん……」
……また、寝ちゃおうか。
早く先に進んで、お姉ちゃんに会いたいって気持ちもあるけど——
休憩も、しないとね
自分の身体を少しだけずらして、ノエルの身体をゆっくりと横たえて、頭が腿の上に乗るようにする。
右手でモーグリを抱きしめたまま、左手でノエルの髪に触れる。
(髪……さらさら)
——世界の終わりに生まれた、最後の人……か
思い出すのは、辛いのかもしれない だからかな、あんまり多くは話そうとしない
だけど、……ふとした瞬間に、辛そうな表情を見せるから——
「……」
私も、早くお姉ちゃんに会いたい
そして未来を変えて、早く、ノエルが平和に過ごせる時が来たら――
まだ少し時間がかかるかもしれないし まだまだ、大変なことが待ってるかもしれないけど
それまでは、この少しの時間だけでもいいから——ノエルの心に小さな平和があると、いいな
*
「ホグっ?」
クポ? いけないクポ……モグ、いびきかいてたクポ?
「クポクポ……クポ?」
クポ? クポ〜〜〜〜?
寝る前のこと、あんまり覚えてないのクポ……
でも、たしかモグは、セラにぎゅっとされながら寝た気がするクポ……
『いい天気クポ〜。おひるね日和クポ〜』
『うん、そうだね。あ、そうだ。ノエルを待ってる間、少し寝てていいよ』
『セラは? セラはおひるねしないクポ?』
『私は、ノエルを待ってるよ。でもそうだね、モーグリと一緒に座るくらいは、してようかな?』
セラは優しいから、そう言ってくれたクポ。
そうクポ。そのときは確かにセラだけだった気がするクポ。モグがセラを独占してたのクポ。
……でも、いつのまにかノエルの頭が、モグの下にあるクポ。
なんでクポ? モグが寝てる間に、来たクポ?
「……クポ?」
ぐるん、と向きを変えて、モグはセラを見上げたクポ。
セラ?
「……クポクポ〜」
セラは、モグも抱きしめてくれて、ノエルなんかにも膝枕してやって
聖母様みたいな穏やかな優しい顔で、しずかに眠ってたから
「ほわわん……クポ」
モグもうれしくて ほわんとして
そしたらまたうとうとして、また寝ましたのクポ
〜〜そんなエンドレスおひるねタイム〜〜
「あ、あれ? いつの間に寝てたんだ俺——って、いつの間に膝枕?! 肩、貸してたはずだろ? 膝借りた覚え、ない……はず (中略) ていうかまだセラもモグも寝てるし……まあ、仕方ないか。じゃあ今度は俺がセラに膝、貸してやればいいんだな」
「? あれ私、いつの間に膝枕されてたんだろ……膝枕したはずだよね……(中略)う〜ん、まあ、……まだ二人とも寝てるし、また寝ようかな。ノエルには、もう一回私が膝枕してあげたらいいのかな……」
「むにゃむにゃクポ…… まだ寝るのクポ 至福クポ〜」
何度か繰り返し
おまけ
「モグ、起きろ! いつまで寝てる? もう行くぞ!」
「クポポっ?! ぶ、ぶつことないクポ! ノエル、なんで焦ってるクポ! モグはまだのんびり寝ていたいクポォ……」
「そんなことばっかり言ってられないだろ? 先はまだ長いんだ。モグが呑気に寝てれば寝てるほど、ライトニングに会うのだって遅くなるんだぞ」
「……クポォォォオ」
「な……なんだその顔。ブタネコがもっとブタっぽいぞ」
「ククククポ……モグひとりのせいにすればいいとでも思ってるのかクポ!」
「じ、事実、寝てたのはお前だろ? あんなに長い時間——」
「このモグ様が気づいてないとでも思ってたのかクポ! モグ様の目は節穴じゃないクポ!」
「な、何が……」
「モグは知ってるクポ……気持ちよく寝てたのはノエルの方クポ! 寝すぎたから、今さら焦ってるクポ! モグに八つ当たりクポ! 見え見えクポ!」
「ち、違っ!」
「何が違うのクポ! その寝ぐせ、だらしないクポ! セラの太ももも赤………クポ——ッ?!」
久々の13-2ベースです… なんだか収拾つかないかんじですみません(^o^)
ろくさんの素敵すぎるほんわかセラモグ絵から、つい妄想です(^^) 平和すぎ愛。
やっぱり13-2時点のノエセラモグは癒しですね……
特にピュアなノエルがいいなあと思ってしまいます。
「留守番任せてる間に寝ちゃったセラを起こすか起こすまいか1人であたふたしてるノエルくんが次にどのような行動に移すのか」という話があったのですが、結局のところは平和な感じに落ち着いてしまいました。
ろくさん、素敵な絵&勝手に書かせていただきましてありがとうございました〜〜!!